本研究では,多国籍企業の参入の脅威や実際の参入が国内企業の組織構造へ及ぼす影響を明らかにすることを目的とし,経済分析を行っている.これまでの研究においては,企業組織構造について主に垂直関係に焦点をあてた分析を中心に行ってきたが,本年度は水平統合に注目をして調査・分析を行った.公正取引委員会が発表している企業結合に関するガイドラインでは,市場内シェアの高い企業の水平合併は禁止されており,多国籍企業の参入により,国内既存企業同士の水平統合が認められる可能性もある.本年度の研究では,多国籍企業の参入により,水平統合へのハードルが下がる場合,新規参入への対応策として水平統合が活発化される可能性について考察している. 水平合併についての理論的考察として,産業組織論の分野で「合併のパラドックス」として知られる考察があり,寡占市場における競合他社との水平統合が,現実に見られる水平統合の場合と反し,統合する企業に利益をもたらさない可能性があることが示されている.統合により市場内の競争は弱まるが統合を行わない企業の生産量が増加することで統合の利益が失われてしまう場合があるからである.この結果を受けてこれまで色々な側面から統合を誘発する要素の解明が行われてきたが,本研究では,統合企業の垂直的取引構造の存在に注目している.水平統合を行う各企業の持つ流通チャネルや販売網が,統合を通じて効率性の改善を行えるのであれば,水平統合を誘発する要因として働く可能性がある.この場合には,多国籍企業のような効率的企業の参入に直面し,国内既存企業が水平統合を行うことで対応していく可能性が考えられる.
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