本研究の目的は、気候が農家の適応行動を通じて農業生産におよぼす影響を構造的かつ動的に明らかにすることである。特に、適応行動のひとつである品種選択行動と気候変化の関係に着目し、品種選択が作物の単収や品質に与える影響について長期パネルデータを用いながら定量分析を行なった。 まず、分析に必要となる時系列データとして、水稲の品種データと生産データおよび気候データをそれぞれ入手し、1970年~2009年(40年間)の都道府県別長期パネルデータを構築した。なかでも品種データについては、膨大な資料を電子データベース化するために、2年間を通じて多くの時間と労力を費やした。整備した品種データを基に、早晩性や耐冷性、食味など単収や品質に影響を与えうる品種特性を数値化し、各品種の都道府県内作付面積を重みづけに用いた都道府県レベルの品種特性インデックスをそれぞれ作成した。 次に、構築した様々な品種特性インデックスを被説明変数として用いる県レベルの集計モデルを基に、各種気象条件が品種特性の選択にあたえる影響をパネル推定した。その結果、猛暑や強風などの短期的な気象影響が耐病性や耐倒伏性といった特性への対応を促す一方で、早晩性、耐冷性、品質、食味などの特性については長期的な気温の変化に伴い適応選択が行われていることが示唆された。本年度は昨年度よりも時間軸をさらに拡張したパネルデータを用いたが、昨年度と類似の結果を得た。 また本年度は、品種選択を考慮した単収・品質への気候影響についても計量分析を行ない、品種選択を考慮しない場合の推定結果と比較した。その結果、品種選択の変化により気象条件が単収・品質におよぼす影響に違いをもたらしうることが示唆された。
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