本研究の目的は、福島第一原発事故に関連する2つの不確実性(放射線被曝の健康影響と事故再発の可能性)に着目し、それらに対する人々の不安を効果的に緩和する方策を検討するための情報基盤を構築することである。そのためには、人々がこれまでどのような情報環境の下で、不確実性をどう認識し、不安にどう作用したかを解明すると同時に、不安の大きさを政策費用と比較可能な貨幣尺度(厚生損失)で測ることが求められる。以上を念頭に、本研究では、福島県・原発立地地域・電力消費地の3地域を対象にweb調査を実施し、前回調査を実施した2012・2013年からの変化や地域差、帰結の不確実性を考慮しながら、原発災害の不確実性に関する不安(厚生損失)形成メカニズムの実証的解明を試みる。 以上の目的に対し、本研究では2つの不確実性それぞれについて、2018年度に福島県民と東京都民を対象とする調査A「放射線被曝の健康影響に関するweb調査」を、2020年度に福井4原発の周辺住民と大阪市民、並びに浜岡原発の周辺住民と名古屋市民を対象とする調査B「事故再発の可能性に関するweb調査」を実施した。以上の調査では、前回調査で開発したhigh-and-low 区間選択法で不確実性への認識を聞き出し、不安については表明選好法を活用し貨幣尺度で計測した。 2021年度は、調査Bで収集したデータを基に原発の安全性に関する情報の接触状況と不安との関係を精査した。また、調査Aで東京都民に対して行った居住物件の選択型実験への回答から、低線量被ばくの健康影響に関するリスク認知(不可避性、恐ろしさ)や情報接触頻度と、被ばく線量を減らすことへの支払意思額との関係を分析した結果を日本原子力学会2021年秋の大会で発表した。
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