本研究は、移民の拡大が受入国のマクロ経済動学に及ぼす影響を分析することを目的とする。最終年度となる令和4年度は、昨年度までに構築した中規模な動学的確率的一般均衡モデルをベイズ推定する作業に継続して取り組んだ。分析を進める過程では、イギリス・ロンドンに出張し、ロンドン大学ロイヤルホロウェイ校経済学部のAndrew Mountford 教授との打ち合わせも実施したが、これまでに用いていたメトロポリス・ヘイスティングスアルゴリズムによるベイズ推定では、事後分布が多峰となり、結果が不安定となることが確認された。そこで新たに、多峰性確率分布を近似することが可能である逐次モンテカルロ法(SMC法)に基づく粒子フィルタを用いて解決を試みる作業へと移った。プログラム作成に際しては、ニューヨーク連邦準備銀行が公開している「FRBNY/DSGE.jl」を参考にすることとなり、プログラミング言語をこれまで使用していたMatlabから、より計算速度の速いJulia へと移行した。サンプルファイルを再現することには成功したので、今後は我々のモデルへを応用できるようコードを修正する予定である。本研究の貢献としては、移民の拡大が及ぼす影響について、ミクロ的基礎付けに基づく理論的説明やマクロデータを用いた実証分析が限られている中で、移民と賃金交渉力を同時に組み込んだマクロ経済モデルを構築したこと、またそのモデルが、賃金交渉力を考慮しないモデルよりも現実をうまく説明できるという結果を初歩的ではあるが得たことにある。実証結果の頑健性の確認が済んだのちには論文としてとりまとめ、今後も国際学術誌への掲載を目標に研究を進めていく。
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