研究課題/領域番号 |
17K13755
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
浅古 泰史 早稲田大学, 政治経済学術院, 准教授 (70634757)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 政治的エージェンシー問題 / 議院内閣制 / 内閣不信任決議 / モラルハザード / 逆選択 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、議院内閣制下における2つの政治的エージェンシー問題(政治家が有権者の好む政策を実行しないモラルハザード問題と、好ましくない性質を有する政治家が当選してしまう逆選択問題)を分析するモデルの基本的枠組みを提示することにある。議院内閣制において、総理大臣は倒閣により辞職を余儀なくされるリスクを有している。本研究では特に、その倒閣されるリスクが、両政治的エージェンシー問題に与える影響を考察する。
直接選挙で選出され、政策の決定権限を1人で有する(と仮定される)大統領制を想定したモデルに比して、議院内閣制を想定したモデルはより複雑になる。政党間の連立政権の形成、議会による総理大臣任命、行政と議会の関係など、議院内閣制の特徴の全てを考慮してモデル構築を行うことは分析を困難にする可能性が高い。そこで本研究では、議院内閣制が有する各特徴を1つずつ抽出していくことで、分析を容易にするだけではなく、各特徴が有する影響を明確に示していく。
平成29年度は、特に倒閣リスクが政治家のモラルハザードに与える影響を考察してきた。倒閣リスクは総理大臣(政府・内閣)の業績と相関していると考えられる。政策の失敗があった場合には、内閣支持率が低下し、倒閣リスクが増大する。一方で、政策が評価されていれば、内閣支持率は高まり、倒閣リスクは低下する。よって、倒閣されることを避けるために、総理大臣がより一層の努力をする可能性が考えられる。数年おきの選挙だけではなく、常に倒閣の可能性があることで、(大統領制に比して)総理大臣の努力量が高まり、モラルハザードを減じる規律効果が強まる可能性が指摘できている。しかし、派閥闘争などの業績以外の理由から倒閣される可能性が高い場合は、規律効果は強まらない点も指摘できている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は対外発表などを行ってはいないが,平成30年度以降の対外発表に向けて,過去の研究のサーベイを充実させたうえで,論文の執筆をはじめている.またサーベイの成果も,研究代表者が現在執筆している著書の中に含める予定である.研究実施計画において,平成29年度は対外発表ではなく,それに向けての準備期間と位置付けていた.よって,おおむね順調に進展していると評価できる.
|
今後の研究の推進方策 |
倒閣が総理大臣の業績に基づいて行われる場合、能力が低いなど、有権者にとって好ましくない性質を有する総理大臣は辞職を余儀なくされる。よって、支持率を低下させず倒閣されないような有能な総理大臣のみが生き残ることになる。つまり、有権者にとって、政治家の能力の不確実性が存在しているという逆選択問題は減じることができると言える。しかし、倒閣が無作為に生じるなど、有能でも倒閣されてしまう可能性が高いには、影響は限定的になる。今後は,このような逆選択問題への影響も考察した論文を執筆する。
同時に、総理大臣と実質的に総理大臣を任命している政権政党の両者を明示的プレーヤーとして考慮したモデルも考える。そこでは、政権政党が一定程度の費用を払うことで、総理大臣候補者の有能度や性質をチェックしたうえで決定することになる。以上のモデルの枠組みから、倒閣リスクが現職の総理大臣だけではなく、総理大臣になろうとする候補者の質に対して与える影響も分析できる。また、議院内閣制のその他の特徴に関しても考えていく。例えば、内閣不信任決議は議院内閣制の要素として必須であることに対し、議会解散権の有無は国・自治体によって分かれる。議会解散権は、議会の内閣・総理大臣に対する優位性を減じる存在となるが、議会解散権の有無によって総理大臣の行動も異なってくるだろう。また、政党が単独で政権を担えない場合、複数政党間で連立政権が組まれる。連立政権と単独政権の間では、総理大臣と議会との間の関係も異なってくるだろう。このような、議会解散権や連立政権の有無などの影響を考えていく。
以上の研究を行いつつ、対外発表でコメントを得たうえで、交換を目指していく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は対外発表や公刊へ向けた準備期間と位置付けていたため、本年度では使い切らず、対外発表が増える平成30年度以降に使用することにした。
|