本研究の目的は、倒閣の可能性が2つの政治的エージェンシー問題(モラルハザード問題と逆選択問題)に与える影響を分析することであった。総理大臣は、議院内閣制下において不信任決議などを通し、倒閣により辞職を余儀なくされるリスクを有している。特に、この倒閣されるリスクが、政治的エージェンシー問題に与える影響を考察してきた。 まず、倒閣リスクが政治家のモラルハザードに与える影響を示してきた。倒閣リスクは総理大臣(政府・内閣)の業績と相関しており、政策の失敗があった場合には、倒閣リスクが増大すると考えるべきだろう。よって、倒閣されることを避けるために、総理大臣がより一層の努力をする可能性が考えられるため、(大統領制に比して)総理大臣の努力量が高まる可能性が指摘できている。現在は、モラルハザード問題に加え逆選択問題も同時に分析できるモデルの構築を目指している。倒閣リスクが現職の総理大臣だけではなく、総理大臣になろうとする候補者の質に対して与える影響も重要である。倒閣が総理大臣の業績に基づいておこなわれる場合、能力が低いなど、有権者に好ましくない性質を有する総理大臣は辞職を余儀なくされる。よって、支持率を低下させず倒閣されないような有能な総理大臣のみが生き残ることになることが示された。これらの研究に関しては、論文にしたうえで公刊を目指している。 本研究から派生的に行われた選挙競争に関する理論研究に関しては、査読付きの国際学術誌に掲載された。また、一連の研究をまとめた洋書を2020年度に公刊予定である。
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