先行研究では、経営者個人のリスク回避度と追加的な固有リスクの負担が原因で、企業がリスクを増加させる行動をとらなくなると指摘されてきた。しかし、これらの研究ではリスク回避度を測っておらず、このメカニズムの十分な検証はなされてこなかった。本研究の主たる目的は、アンケート調査を行うことで経営者のリスク回避度を直接的に計測し、経営者のリスク回避度と固有リスクの負担が原因で、企業はリスクを増加させる行動をとらなくなるのか、また、報酬体系によって経営者個人のリスク回避度の影響を軽減することができるのかを検証することである。 前年度は、アンケートデータの整理と企業の投資行動に関する仮説の検証を行なった。検証の結果、経営幹部のリスク回避度が高ければ相対的に投資水準が低くなること、そして、凸型のペイオフを持つ報酬体系(例えば、ストックオプション)を導入することで、この影響は緩和されることが明らかになった。平成30年度は、学会やセミナーで得られたコメントを基に、コントロール変数を追加した分析やアンケート回答企業の代表性の確認などの追加分析を実施した。また、検証する仮説をより直接的に示すために理論モデルの構築を行った。これに加えて、企業行動に関する追加的なアンケート調査を行った。また、本研究の出発点となっている、経営幹部のリスク回避度や楽観度が企業投資行動に与える影響を分析した論文についても、コメントを踏まえて改定を行った。今後、これらの論文を国際査読誌に投稿する予定である。
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