本研究は証券を大量執行することにより価格の操作が事実上可能である機関投資家のような経済主体の行動を基にして、通常の取引所取引と取引所外取引双方を考慮した際の価格の歪みを是正するための制度設計を目的としている。機関投資家の行う取引所外取引に関しては、証券取引所における取引時間後にその日の終値を用いたブローカーとの相対取引を考えている。その際に機関投資家は、この相対取引で用いられる価格を意図的に操作することが原理的に可能であることから、最適化のプログラムに従った自動で行われるアルゴリズム取引を用いることにより、ある条件下では容易に取引所における価格を歪めてしまう事がわかった。このもとで、取引所外取引を市場で付けられている価格を歪め不正利益を追求する場とするのではなく、真に流動性を必要とする投資家に対して利益となる場となるよう、取引所外取引の手数料体系の構築(相対取引契約の価格付け)を行った。具体的には、主にブローカーの期待効用を最大化するブローカーの視点から相対契約の手数料の特徴づけを行い、先行研究で行われている機関投資家視点からの手数料体系との比較を行い、最適な手数料の水準を考察した。更にこの手数料の数値計算による導出から比較静学を行うと、手数料の水準により機関投資家の行動が大きく変化することが分かった。機関投資家の証券の購入計画において、取引所外における手数料が安い場合に機関投資家は、取引所で計画量以上の証券を購入し価格を引き上げ、残余分を高い価格で取引所外において売り渡す行動を積極的に行う。取引所外における手数料がある水準に達すると、機関投資家は取引所外を不正な利益を得る場とするのではなく、適正に流動性を追求する場として使用するように変化することが見て取れた。手数料の解析的導出、及びこの不正使用と適正使用の境界となる手数料の解析的な導出は今後の課題となる。
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