研究課題/領域番号 |
17K13767
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
溝端 泰和 関西大学, 経済学部, 助教 (60727121)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 資金制約 / 企業間分布 / 産業間要因 / 産業内要因 / 資金制約ギャップの変遷 |
研究実績の概要 |
本年度は、日本政策投資銀行の「企業財務データバンク」(2016年版)を用いて、日本の上場企業の資金制約の状況を分析した。また、推計された資金制約の強弱を、借入制約の未定乗数の大小によって計測し、その値の企業間分布、および、時系列変化について定量的に分析を行った。結果、以下のことが導かれた。1)上記の分析で推計された資金制約の強さは、米国における研究、日本におけるバブル期以前を対象とした研究と比較しても、平均的に小さな値である。2)推計期間(1994年から2013年)における企業間の資金制約の値を四分位点ごとにプロットした結果、特に2000年以降傾向的に企業の異質性が高まっている。3)企業の異質性は、特に資金制約の弱い企業の存在によって特徴づけられ、分布でいえば年々分布が左寄りに移り変わっている。4)資金制約の企業間分布は、右に裾が長いγ分布のような形状であり、多くの資金制約の小さな企業と、ごく少数の資金制約の大きな企業とに二分される。 上記の結果は、昨今の積極的な金融政策が貸出の増加につながらない現象を、次のように説明する。すなわち、たしかに一定数資金制約に苦しんでいる企業が存在するものの、全体からみたそういった企業の割合は年々減少してきており、金融機関がうまくそういった企業を見つけ出すことができなければ貸出は増加しない、いわゆる「日本型金融排除」の状況を作り出す、のである。この結果は、今後の政策効果の研究において重要な証左になりうるし、また、当該研究計画の後半部(マクロモデルによる金融政策の分析)にも重要なモデル上の示唆を与えるものであると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画は、データセットの作成とミクロデータによる実証分析であったが、いずれについてもほとんど実施することができた。当初予定から変更した点としては、以下の2点があげられる。1点目は、研究費予算の当初予算からの減額があったため、日本政策投資銀行のデータをフルに購入することができなかった。このため、東証、名証の一部と二部に上場している企業のみを対象とし、ジャスダッグやマザーズといった新興市場に上場している企業は今後の課題とした。2点目は、当初計画では企業の意思決定と企業価値の関係について分析予定であったが、企業間分布の分析に注力する方が論点として明快であることからこの分析についても今後の課題としている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究の結果、企業の資金制約についての異質性が2000年以降広がる、より具体的には資金制約のない企業の割合が増加する一方で、これまで以上に資金制約の強い企業が増えているという形で推移していることが明らかとなった。今後は、得られた結果をより精緻に分析するとともに、マクロ経済モデルにどのように組み込むかを検討することとなる。たとえば、Iacoviello[2005, 2015]は土地価格とマクロ経済の関係を分析しているが、そこで考えられている異質な家計の設定を企業に応用し、企業には資金制約の強いタイプとそうでないタイプが存在するという仮定のもと、その企業の割合を決める確率ショックが金融政策に及ぼす効果をみるといった方法が考えられるだろう。
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