研究課題/領域番号 |
17K13767
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
溝端 泰和 関西大学, 経済学部, 准教授 (60727121)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 資金制約の格差 / 生産性の格差 / 信用割当 / 担保制約 / 労働生産性 / 全要素生産性 / 企業間分布 |
研究実績の概要 |
本年度は、前年度の研究成果を拡張し、なぜ日本企業の資金制約に格差が生じたのか、各企業の生産性の違いから追加的分析を行った。具体的には、個々の企業の生産性を労働生産性、および、全要素生産性で測定し、企業の生産性がその企業の資金制約にどのように影響するのかその弾力値を計算した。分析の結果、全要素生産性の1パーセントの低下は資金制約の未定乗数を0.26パーセント上昇させることがわかった。また、この結果は、企業の生産性と資金制約の同時決定をコントロールしたもとで得られたものであり、単純な相関関係ではない点に注意が必要である。 前年度の成果とあわせるとこれまでの分析から、日本企業の資金制約の分布は右に裾が長いガンマ分布をしていること、このような分布のゆがみは2000年以降拡大していること、企業間の資金制約の格差は産業間要因よりも産業内要因に帰着できること、企業間の資金制約の格差は企業の全要素生産性に代表される生産性の違いによって生じている可能性があること、の4つの点が明らかになった。 本年度の研究結果は、資金制約の格差がなぜ生じるかという問いに答えるだけでなく、研究の目的の一つである政策提言を考えるうえでも重要となる。前年度明らかとなった資金制約の格差という事実だけであれば、1998年から2001年にかけて実施された中小企業金融安定化特別保証制度のような、政府が時限的に特定の企業をサポートする政策の有効性を指摘できるだろう。しかしながら、資金制約の格差の背景には企業の生産性の格差があるとする本年度の研究成果とあわせて考えると、企業間の競争促進であったり、よりドラスティックには、ゾンビ企業の市場からの撤退を促す政策のほうが有効である可能性がある。前者の政策には、金融機関のモラルハザードが生じる可能性があることを鑑みると、両方の政策の有効性についてさらなる分析が必要になるだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画は、企業の資金制約の状況が時代や産業ごとにどのように変化しているか企業の異質性の観点から分析すること、得られた結果からどのような経済政策が有効か検討すること、シミュレーションへの足掛かりになるマクロ経済モデルについて検討を開始すること、の3点からなる。最初の2つについては、研究実績の概要からわかるとおり十分な分析ができたと考える。とりわけ、経済政策としては当初、個別企業を対象とする資金制約の緩和をイメージしていたが、追加分析の結果企業の生産性への対策もまた有効である可能性が指摘されたことは予期しなかった新たな発見といえる。 一方で、マクロ経済モデルの検討という点では現時点では十分な分析ができているとはいえない。本年度の研究成果として、企業の生産性格差が資金制約に与える影響の重要性が指摘された。したがって、マクロ経済モデルを考える際にも、以前から考えていた借入制約の強弱という形での企業の異質性に加えて、生産性の大小という新たな異質性も考慮に入れる必要性がでてきた。このような2つの異質性をどのような形で既存モデルに取り入れていくかについては十分に検討できなかった。ただし、マクロ経済モデルを考えるうえで役立つ先行研究(Iacoviello[2005,2015], Ottonello and Winberry[2018])のサーベイやIacovielloのモデルを拡張している豊田氏と研究打ち合わせの時間をとることができたことなどから、上記区分での進捗の評価とすることにした。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、これまでのミクロ計量分析の結果得られたインプリケーションを反映したマクロ経済モデルの作成とそのシミュレーション分析が中心となる。マクロ経済モデルを作成する際には、以下の2点が重要となる。 一つは、企業の異質性をどのようにモデル化するか、である。上述のとおりこれまでのミクロ実証分析から、企業間の資金制約の違いが近年拡大していること、また、その背後には企業間の生産性の違いがあることの2点が明らかになった。このような二つの企業の異質性をどのようにモデル化するかが一つ目の課題である。解決策としては、企業には2つのタイプが存在し、生産性が高いグループとそうでないグループがあると考えるもので、それぞれのグループの資金制約は、企業が持つ担保価値によって共通の形で生じると考える。この場合、考えなければいけない企業のタイプを2つに集約できるため分析はシンプルになるだろう。 もう一つ考えなければいけない点としては、マクロ経済モデルに明示的に貨幣を導入するかどうかがある。貨幣を導入する場合、名目変数と実物変数を区別し、かつ名目値の硬直性や金融政策ルールを明示的に取り扱わなければならない。また、金融政策を考える場合ゼロ金利制約を考慮するかどうかも重要となる。このような研究には、Ottonello and Winberry(2018)がある。一方で、貨幣を導入せずに信用割当の影響のみに焦点を当てて企業の異質性の効果を分析することも可能である。この場合、モデルは実物変数のみで記述される。このようなタイプの研究には、Iacoviello(2005,2015)がある。前者の分析は、より包括的かつ現実的に金融政策について議論できるメリットはあるが、一方でテクニカルに分析がむずかしい側面がある。当面は、後者のアプローチでマクロ経済モデルを作成することを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
残額がわずかなため、無駄な支出をせず次年度繰越することで効率的に研究費を利用しようと考えた。繰越分は、本年度の物品費、および、旅費により使用する予定である。
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