研究実績の概要 |
本研究の目的は,近世・近代初期における大西洋経済圏の発展過程の中に,従来は顧みられることが少なかったドイツ内陸地域がどのように位置づけられるのかを測定するために,ザクセン地方を例にとり,同地方における大西洋植民地物産市場の形成を跡付けるものであった。 最終年度では,「商人」と「消費」の観点から,北ドイツ貿易港ハンブルクからザクセン地方かけて大西洋植民地物産の消費がどのように浸透していったのかを検討した。まず,ドイツ地域が大西洋経済圏に組み込まれていくプロセスを商人史研究の視点からとらえていく研究が必要であることを,これまでの先行研究を整理することで示した。この成果は論文としてまとめられており,『経営史学』に掲載が決定している。また,ハンブルクにおける市場がヨーロッパ大西洋諸国の商人に対して開かれていく過程を史料に基づき分析し,とくに外来者の参入を促進する市場制度の導入が在地商人の利害を調整しつつ進められたことを明らかにした。これも論文として『市場史研究』に投稿済みであり,掲載が決定している。 さらに,近世ヨーロッパ消費史研究の中に,とくに大西洋経済との関連でドイツ地域を含めて考察する必要があること,またその場合研究上どのような論点があるのかを考察した論文を執筆し,『中央大学商学論纂』第61巻5・6号(2020年3月),27‐65頁に掲載した。 研究期間全体の中で最大の成果は,商品流通や市場での取引に関する一次史料の収集と分析による成果を取り込んだドイツ語書籍の出版である(Yuta Kikucni, Hamburgs Ostsee- und Mitteleuropahandel 1600-1800. Warenaustausch und Hinterlandnetzwerke, Boehlau, 2018)。
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