2019年度は,研究成果の査読付論文としての掲載に向けて注力した.具体的には,外部取締役の属性が撤退の意思決定に与える影響に関して,前年度までに得られていた研究成果を論文としてまとめ上げ,『組織科学』の第13回特集論文公募「ミクロ的基礎による戦略論の展開」に投稿し,審査の結果採択された. 当該論文では,撤退の意思決定に与える影響が外部取締役の属性によって異なる可能性を検討した結果をまとめている.渡辺 (2017)では全体的には外部取締役の負の影響が観察されていたものの,正の影響をもたらす外部取締役はいないのか,もしくは,どのような外部取締役が負の影響をもたらしているのかという問題が残されていたため,それを解決することがこの論文の目的である.前年度までにおおよその分析は完了していたため,本年度には査読付論文としてまとめあげた上で,審査への対応を行った. その審査に当たっては,シニアエディターの先生や,匿名の2名のレフェリーの先生よるコメントをもとに,理論的な位置付けの精緻化や,分析の示唆・インプリケーションの明確化に取り組んだ.これらの作業により,ボードクオリティの研究では,関連する職務経験を積んで知識を持った外部取締役は,主に助言を通じて望ましい影響を発揮することが想定されているものの,必ずしも助言だけに限らない可能性に関する示唆や,社外取締役の独立性やその基準の1つである取引関係という概念自体を再検討する必要があるのではないかというインプリケーションが得られた.
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