銀行業や証券業など同一組織で兼営する総合金融機関(金融コングロマリット)は,我が国の金融機関の特徴の一つである。こうした組織形態は,規模の経済性や範囲の経済性といった経済的利益における利点がある反面,利益相反などの問題を引き起こす余地を拡大するといった懸念が指摘されてきた。 本研究プロジェクトでは,総合金融機関(金融コングロマリット)に属するセルサイド・アナリストに焦点を当て,グループの銀行部門ならびに証券部門と利害関係にある企業に対して,どのような情報生産活動を行われているかを明らかにすることを目的としている。 これまでの研究による成果では,上述のような利害関係にある企業を対象としたアナリストの投資推奨は,そうでない企業を対象とした投資推奨と比べると,"買い寄り"の内容であることを明らかにした。また,こうした"買い寄り"の投資推奨は,銀行部門が融資を行う企業の中でも返済に懸念がある(推定デフォルト確率が高い)場合に,より顕著にみられることも明らかにしている。 本年度は,セルサイド・アナリストの投資推奨情報に内在する歪みが,日本証券業協会が制定した自主規制によって是正されるかを明らかにすることに努めた。規制導入前後の投資推奨の歪みの比較や投資推奨に対する株式市場の反応を基に,当該規制がセルサイド・アナリストの公正性を向上させることに成功していると結論付けた。また,セルサイド・アナリストが情報生産者として有効に機能している場合,その効果は証券の売買が行われる流通市場のみならず,企業が資金調達を行う発行市場においても望ましい影響を及ぼすことも明らかにした。
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