研究課題/領域番号 |
17K13786
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
浦野 充洋 関西学院大学, 商学部, 助教 (10613614)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 社会的企業 / ソーシャル・イノベーション / 実践論的転回 / 批判的経営研究 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ソーシャル・イノベーションを捉える論理の探求にあった。ビジネスの仕組みを用いて、社会的課題を解決するソーシャル・イノベーションへの関心が高まってきている。関心の高まりとともに経験的研究が蓄積されてきているが、ソーシャル・イノベーションを捉えるための理論的枠組みについては議論の途上にある。本研究では、(1)社会的企業論を中心にしながら、制度派組織論、クリティカル・マネジメント・スタディーズなど理論的な視座や方法論の前提にまで遡ってレビューすることで、ソーシャル・イノベーションを捉える理論的枠組みを検討すること、(2)この理論的枠組みをもとに経験的な調査を通じて実践的な含意を追求していくことを目的としている。 上述の目的のもと、初年度にあたる平成29年度は、(1)ソーシャル・イノベーションを捉えるための理論的枠組みを構築すべく、社会的企業論を中心に理論的な検討を行った。具体的には、第一に、社会的企業論のルーツとなるアメリカとヨーロッパ、そして、日本を対象に社会的企業の定義を中心に社会的企業論の動向についてレビューした。このレビューを通じて、社会的企業が様々に語られている現状を示すとともに、社会的企業を捉えるための理論的枠組みを継続して検討してくことが必要であることが示された。第二に、研究者が社会的企業の定義を持ち込むのではなく、実践から社会的企業を捉えようとする研究のレビューを行い、実践に注目しようとする際の方法論的な陥穽を考察した。この問題を解消するアプローチとして、研究者自身が前提にする社会的企業のイメージまでも検討の対象とする批判的研究を取り上げ、それらの研究の問題点と可能性について考察を行った。この研究成果は、学会で報告されるとともに、学術論文として公刊された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、ソーシャル・イノベーションを捉える論理を探求すべく、(1)社会的企業論を中心としたレビューにもとづいた理論的枠組みの構築と、(2)経験的調査を通じた実践的含意の追求を目的としている。 この目的のもと、初年度にあたる平成29年度は、(1)社会的企業論を幅広くレビューすることで、ソーシャル・イノベーションを捉えるための理論的枠組みについて検討した。社会的企業は、アメリカとヨーロッパをルーツとしながら、今日では日本でも研究が蓄積されてきており、各国の文脈で様々に論じられている。そこでまずは、日欧米の議論の違いに注目しながら幅広くレビューを行い、社会的企業論の現状について整理した。社会的企業論のレビューと並行して、当初の予定では、理論的土台として制度派組織論を重点的に検討することを予定していた。しかし、社会的企業論のレビューを通じて、先に方法論的課題に取り組む必要性が見いだされたため、次年度以降に予定していた批判的経営研究のレビューに着手するとともに、批判的経営研究に重点を置いてレビューを行った。 (2)経験的調査については、平成30年度以降に始める予定であったが、韓国の社会的企業の動向についてインタビューする機会を得られたため、調査についても開始した。韓国は、アジアで唯一、社会的企業に関する法律を制定し、行政をあげて社会的企業を推進してきた国である。調査は主に行政関係者と中間支援組織を対象に行った。この調査結果については、現在、まとめている最中であり、その成果は、平成30年度以降に発表される予定である。 以上のように、先行研究のレビューの重点の置き方について、当初の予定から順番を入れ替えることになったが、理論的枠組みの構築に向けた進捗度合いとしては順調である。さらに経験的調査について、予定を前倒しして着手できることになり、総合的に、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策として(1)文献レビューと(2)経験的な調査の2つの観点から記述する。 (1)先行研究のレビューに関しては、社会的企業は様々な領域で継続的に議論されているため、最新のジャーナルや学会での議論をフォローするとともに、引き続き、各領域の研究者と定期的に研究会などを開きながら情報収集と議論の研鑽に努めていく。また、本研究では社会的企業を捉える理論的土台として制度派組織論の検討を計画している。この計画のもと、平成29年度は、制度派組織論で、近年、とくに議論されている制度ロジックス概念にもとづきながら社会的企業を捉えようとする研究を中心にレビューを行った。平成30年度以降は、制度ロジックス概念の含意をより深耕するために、制度派組織論そのものに立ち戻ってレビューしていくことを予定しており、社会的企業論と並行して制度派組織論についても、最新のジャーナルや学会での議論をフォローしていく予定である。そのために、制度派組織論を専門とする研究者とも研究会を開くなど積極的に意見交換をしていく予定である。 (2)経験的な調査については、予定を前倒しして、韓国における社会的企業の動向に関するフィールドワークに着手することができた。ただし、平成29年度は、行政や中間支援組織など、社会的企業を支援する組織を対象に調査を行ったため、平成30年度以降は、社会的企業そのものを対象に入れて調査を行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に予定していた研究会に参加することができなくなったため、次年度使用額が生じている。未使用分に関しては、次年度の研究会に参加するための旅費にあてる予定である。
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