研究課題
本研究は、ソーシャル・イノベーションを捉える論理の探求を目的としている。この目的のもと、(1)社会的企業に関する研究を中心に、制度派組織論や批判的経営研究など、理論や方法論に遡ったレビューを行うことで、ソーシャル・イノベーションを捉える理論的枠組みを検討すること、(2)経験的な研究を通じて実践的な含意を追求することを研究課題としてきた。上記課題に対して2021年度は、(1)先行研究のレビューについては、第1に、2020年度より続けてきた制度と物質性の関係の考察について、編著所収論文として公刊した。第2に、制度派組織論において議論されてきた制度ロジック研究を中心に検討を進めた。社会的企業は、社会性と事業性が混淆されたハイブリッド組織としても注目されてきており、こうした複数のロジックが混淆された実践を捉えようとするのが制度ロジックの視座である。本研究でも、こうしたロジックの混淆から実践を捉える視座として制度ロジック研究に着目するとともに、制度ロジック研究を補完する研究としてフランスのプラグマティック社会学が指摘されてきたことに注目し、プラグマティック社会学のレビューも進めることで、複数のロジックが混淆された実践を捉える理論的枠組みについて検討した。(2)経験的な研究については、第1に、上記の制度ロジック研究のレビューを通じて検討した理論的枠組みのもとで、社会的企業を考察した。具体的には、コロナ禍によって照らされた労働や企業の問題に対して、社会的企業の観点から考察を行い、学会報告を行った。なお、本検討は2020年度より継続して行ってきたものである。第2に、本研究で検討してきた理論的枠組みを援用して、日本企業の管理実践が市場のロジック、家族のロジック、職業のロジックなど、複数のロジックが混淆されながら変容してきた過程を分析し、学会報告を行った。
3: やや遅れている
2020年度に続き、新型コロナウイルス感染症の影響により、学務が増加したこと、および、フィールドワークの遂行が困難になったことから研究に遅れが生じている。理論的枠組みの精緻化、および、経験的研究の双方に遅れが生じているが、特に経験的研究に関して遅れが生じている。
今後の推進方策について、(1)先行研究のレビューと(2)経験的な研究の2つの観点から記載する。(1)先行研究のレビューに関しては、これまで社会的企業に関する研究を中心に制度派組織論や批判的経営研究のレビューを行い、2021年度は特に制度ロジック研究を中心に理論的枠組みについて検討を行ってきた。2022年度は、この理論的枠組みをもとにしながら、特に方法論の検討を深めることで、本研究が研究課題の1つとしてきたソーシャル・イノベーションを捉える理論的枠組みを提示したい。(2)経験的な研究については、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によりフィールドワークが難しくなったことから、研究方法をフィールドワークから二次資料の分析に切り替えて研究を進めてきた。2022年度も継続して二次資料の分析に取り組むことで成果をまとめていきたい。また、新型コロナウイルス感染症の状況に注視しながら、フィールドワークの可能性についても検討したい。
新型コロナウイルス感染症の影響により、研究計画に遅れが生じていること、および、フィールドワークが遂行できなかったために未使用額が生じている。2022年度の主な使途としては、文献・資料などの収集、および、新型コロナウイルス感染症の状況に応じながらフィールドワークのための旅費などに用いる予定である。
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