本研究は、組織コントロールが組織メンバーに与える影響について従業員のアイデンティティの観点から考察し、質問票調査によってその一連のプロセスを検証することを目的とした。このような研究目的のために、本研究では特に自己概念志向とアイデンティティ志向という概念に注目し、より精緻な理論モデルの構築を試みてきた。その成果は以下のように要約される。 まず、重要概念である自己概念志向に関して、従業員の私生活と職場では区別されることが明らかにされた(本研究では、私生活で表れる傾向を自己概念志向、職場で表れる傾向をアイデンティティ志向と呼ぶ)。このことを踏まえて、組織コントロール影響過程について確認されたことは、従業員が所属集団のコントロールをどう認知するかによって、職場におけるアイデンティフィケーションの対象―対人関係か集団か―が影響されることである。さらに、組織コントロールと職場における従業員のアイデンティフィケーションの関係は、アイデンティティ志向によって媒介され、自己概念によって調整される一連の過程が部分的に実証された。 ついで、分析モデルの精緻化をはかるために、各要因を細分化してより詳細な分析を行った。たとえば、成果給を市場コントロールとみなし、成果給と自己概念志向やアイデンティティ志向、アイデンティフィケーションの関係を検討した。これに関連して、組織コントロールとアイデンティフィケーションの両概念が組織的公正と密接な関わりを有していることから、組織的公正の影響と3つの自己概念志向の調整効果に関する理論的かつ実証的に考察した。その結果、より詳細な検討は必要だが、組織コントロールが従業員による公正知覚に影響を与え、その知覚された公正さが関係アイデンティフィケーションと組織アイデンティフィケーションの両者に正の影響を及ぼすことが確認されたのである。
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