平成31年度は、2つの小課題への取り組みを独立に進める形で研究を進めた。第一の小課題としては、半導体産業における技術的な企業間関係について、特許引用データをもとにした検討を行った。先行研究においては、特許の引用関係をもとに、企業間の技術・知識のスピルオーバー効果や、企業間の技術的なネットワーク構造を推定するような試みが行われている。こういった先行研究を参考にして、本取り組みにおいては、半導体産業に関連する代表的な企業を選択し、選択された企業についてネットワーク分析を行った。具体的には、世界各国の特許情報を包括するデータベースから得られたデータセットを用いて、各企業の特許引用の傾向を比較し、傾向の類似性をもとに企業のグループ分けを行った。分析結果によると、半導体産業における企業の特許引用傾向の類似性には、企業の業態(設計専業、製造専業、設計製造兼業など)に加えて、本社が位置する国が同一であるかどうかが影響していることが示唆された。ただし、後者については半導体産業に限らず一般的に認められる影響である可能性が考えられるため、より詳細に分析を続ける必要があると考えている。第二の小課題としては、小売・製造企業の在庫管理の効率性を説明する回帰モデルの分析研究を論文として完成させて、査読付英文学術雑誌に投稿した。そして、査読者からの批評をもとに論文の修正を続けた。修正の過程においては、回帰モデルの回帰係数に関する仮定の緩和の検討や、情報量基準(AICとBIC)の比較の追加などを行い、企業の在庫回転率を説明するために指数平滑法をもとにした売上サプライズ変数を使用することの妥当性を示すための判断材料をさらに充実させた。
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