研究課題/領域番号 |
17K13815
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
渡邊 隼史 金沢大学, 電子情報通信学系, 助教 (30783956)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 統計物理 / 超慢拡散 / 長期記憶 / 社会的記憶 / 非整数微積分 / SNSデータ / 時間付きテキストデータ / 新聞記事 |
研究実績の概要 |
単語の書き込み件数の時系列の十分安定した含まれる記憶について米国物理学会のPhysical review E誌に論文として発表した。論文成果の概要は以下の通りである。 (1)十分定着した語の使用頻度は,対数関数的に変化していることを明らかにした。 具体的には,Ultraslow diffusionと呼ばれる拡散現象とよく類似することを示した。Ultraslow diffusionは,物理学において主に数学モデルとして研究・予言されてきたものだが,現実世界での観測例はほとんど知られていなかった。そのような珍しい現象が社会現象として観測できることを示した点に意義があると考えられる。 (2)この拡散現象は,ブログ、新聞、英語・フランス語・中国語・日本語のwikipedia page view など、単語・媒体・言語の種類等の系の詳細によらず広く観測できることを示した。 (3)この拡散現象は,「べき乗的な忘却をもつランダムウォークモデル」でよく説明できることを示した。特に,現実の現象は,モデルにおいて特別な忘却速度のパラメータで説明されることを示した。そのパラメータは、「定常と非定常の境界」,また,「ランダムウォークと定常のホワイトノイズとのちょうど中間の確率過程」に対応する忘却スピードとして特徴づけられる。これは社会の「記憶」と「安定性」の関係を示唆する成果である。 この成果は応用的には,時間付きテキスト解析の基礎技術であるノイズ除去などに役立つと考えられる。また,基礎科学的には,人間社会の時間的な安定性と社会的な記憶の関係の一つの事例を示した可能性がある。本成果は,研究計画のうち基礎的研究にあたる。新語の「普及後」の時間変化の性質を量的・数理的に明らかにしたものである。この知見は,今後,新語の「普及前」の性質を調べるときに活用できると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
前年度は論文として一部を論文成果をまとめられた。また,その論文成果化の過程で,当初の成果の予想を超え,本研究の中心データの検証データである日本語のブログデータだけでなく,新聞のような伝統的メディアや英語や中国語などの外国語のWikipediaの表示ページ数の時間変化など,一般性のある成果であることが確認できた。 しかし,その成果の一般性の検証に時間がかかり,研究課題の中心である「新語」の普及については,成果化できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は,研究課題の中心である「新語」の普及について研究・成果化を進めていく。まず,基礎研究では,新語の件数の指数関数的増加の性質をデータ解析により明確にする。応用については,単語の共起語の時間的変化の性質についてまずいくつかの例で研究を進める。所属の異動のための遅れもあり,研究期間の1年延長も検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
勤務先の異動があったため予算執行等に遅れが生じたため。
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