最終年度では昨年度から進行している会計変数に基づいた期待株式リターン推計値の実現株式リターン説明力に関する国際比較研究を進展させた。昨年度の段階では,会計変数に基づいて推計された期待株式リターンとその後の実現株式リターンとの関係性を分析することで,平均的には期待株式リターンが事後実現株式リターンと正比例の関係性にあることが確認されており,またそのつながりの強さは各国の資本市場に関する制度環境の良し悪しから影響を受けていることが明らかにされていた。本年度では,関連文献を改めてレビューしながら資本市場制度環境がなぜ期待株式リターンの実現株式リターン予測能力に影響を及ぼすのかについて理論的検討を行い,株価のinformativenessおよび期待リターン推計に用いられるアナリスト利益予測の情報精度という2つの論点を抽出した。これら論点は本研究プロジェクトの主題である会計情報に基づく期待株式リターンの推計値の信頼性を検討する上で重要な示唆を持つと期待される。また本研究は日本会計研究学会からの派遣として,2021年11月に台湾会計学会の国際セッションにて報告を行った。現在は期待株式リターンの予測能力の主因が株価のinformativenessにあるのか,アナリスト利益予測の精度にあるのかを実証的に検討すること,および台湾会計学会での研究報告に際して,韓国会計学会から同じく派遣された討論者からのコメントを論文に反映すべく改訂作業を進めており,その後にジャーナル投稿を行う予定である。また,本研究プロジェクトに関するアウトリーチの一環として,会計実務家・研究者向けの雑誌である企業会計に寄稿を行った。
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