研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、両利きの経営を実現するために、マネジャーがどのようにマネジメント・コントロール・システム(MCS)を用いているのかを明らかにすることである。本年度は最終年度であることから、(1)最終年度に実施した研究の成果、及び(2)研究期間全体を通じて実施した研究の成果について記載する。 (1)最終年度に実施した研究の成果 令和元年度は、平成30年度から引き続き、両利きの経営が実現されている、またはその実現を目指しており、そのためにMCSが用いられている企業を対象とした定性的調査を実施した。その概要は以下の通りである。 令和元年度は、不動産会社に対する定性的調査を実施した。本事例では、既存事業部門(深化部門)から新規事業部門(探索部門)への協力を促進するために、内部振替価格制度への工夫が凝らされていた。これは、これまでの研究において発見されたインタラクティブ・ネットワーク(Simons, 2005)が探索・深化部門間の協働を促進するという知見を確認するものである。また、本事例においては、利他を志向する経営理念の浸透がこれらの部門間協働の基盤となっていることを発見した。 (2)研究期間全体を通じて実施した研究の成果 研究期間全体では、①両利きの経営と関連した管理会計研究の文献レビュー、および②両利きの経営が実現されている、またはその実現を目指しており、そのためにMCSが用いられている企業を対象とした定性的調査を実施した。これらの研究により、これまで十分に明らかにされていなかった「両利きの戦略を実行するためにマネジャーが必要とする特定のミクロなメカニズム」(O'Reilly and Tushman, 2011: 8)について、内部振替価格制度や間接費の配賦、会計責任の共有といった管理会計システムによるインタラクティブ・ネットワークの構築が探索部門と深化部門の統合において重要な役割を果たしていることが示された。
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