本研究は,医療機関において管理会計システムを機能させる重要な要因として、ミドルマネジメントに焦点を当てる。本研究では、医療機関の管理会計システムにおけるミドルマネジメントの役割について,そのプロセスを明らかにすることを目的とする。 先行研究では、医療機関のミドルマネジメントの役割について、「会計化(Accountingization)」の枠組みの中で議論されている。会計化は、現場が会計コントロールによる影響を受けた結果,現場の活動が本来の姿から歪められてしまうような状態を意味する。 医療の会計化に対し、医療専門職のミドルマネジメントは、トップマネジメントからの会計コントロールの影響を吸収することで現場の活動を保護する「吸収役(Absorption)」としての役割と、トップマネジメントと現場の橋渡しを行う「双方向の窓(Two-way windows)」としての役割を担うことが指摘されている。 本研究では、会計化におけるミドルマネジメントの役割について、インタビューや参与観察をはじめとするケース・スタディを実施した。調査の結果、トップマネジメントから現場への会計化の圧力の内容に応じて、吸収役と双方向の窓の役割が切り替わるとともに、管理会計システムと現場の連動の状態も変化することが示唆された。 第1年度~第3年度は、理論的枠組みの構築を目的とした先行研究のレビューおよびリサーチ・クエスチョンに対する調査データの取得を試み、論文および学会報告によって各年度の成果を公表した。最終年度である本年度は、これまでに構築した理論的枠組みに基づき、調査データを整理し、最終の成果論文としてまとめ、国内学術誌において公表した。
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