研究課題/領域番号 |
17K13847
|
研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
高橋 知子 (渡會知子) 横浜市立大学, 国際総合科学部(八景キャンパス), 准教授 (10588859)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | システム理論 / 空間論 / 包摂 / 排除 / 移民 / 福祉国家 / ローカルな支援 |
研究実績の概要 |
本研究は、昨今のトランスナショナルな現象の増大(とりわけ、移民や難民の増加ならびにナショナルな福祉国家の危機)を背景として、そうした現行の社会の再編のあり方を適切に捉えようとする社会理論的研究である。その際、本研究では、ドイツを事例とした実証研究に基づきつつ、ニクラス・ルーマンのシステム理論とその「包摂/排除」概念を考察の手がかりとすることによって、具体と抽象、理論と実践を結ぶことを方法的眼目としている。 本年度は、多様な文化的背景の人々が混在する都市的空間の特殊性を捉えるための基礎的考察を行なった。ローカルな場で行われる移民支援の実践は、ドイツを始めとして、グローバル化の中でいわゆる活性化戦略へと舵を切った福祉国家にとって非常に重要な鍵となっているが、その重要性は、経験的・理論的に十分に内容のあるかたちでは提示されずにいる。 本研究では、システム理論と空間論という、近年注目されつつある二つの見方の関連を掘り下げながら、研究代表者がドイツで行なった移民支援の実態調査に基づくことによって、構造的プログラム(社会政策)と遂行的プラクティス(援助の現場)の間に見られる関係と断絶、屈折や緊張を仔細に議論に載せる方法論的視座の重要性を提起した。これは同時に、福祉国家論に見られる従来の「権力論の過剰」と「実践からの乖離」をともに修正することを目指したものでもある。 成果は論文にまとめ、『社会学史研究』第39号「特集 社会理論の最前線ー空間ー」(2017年6月発行)に発表した。また、同成果をより発展させたものは国際社会学会(ISA)世界大会の査読を通過し、テーマ・セッション「空間の再編ー社会理論の挑戦(”The Spatial Reconfiguration: Challenges for Social Theory”)」(2018年7月にトロントにて開催)で口頭発表することになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者の妊娠・出産に伴い、当初計画していた海外調査の開始は延期せざるを得なくなった。他方で、空間論という新たな切り口を得た結果、理論的研究は計画を超えて進捗した。その成果は、学会誌(『社会学史研究』第39号「特集 社会理論の最前線ー空間ー」に学術論文として発表した(タイトル「N.ルーマンのシステム理論における『空間』の意味ードイツ福祉国家の再編とローカルな援助の関係変容に寄せて」)。また、これを発展させたものは、国際社会学会(ISA)世界大会の査読を通過し、テーマ・セッション「空間の再編ー社会理論の挑戦(”The Spatial Reconfiguration: Challenges for Social Theory”)」で口頭発表することになった。 以上のように、調査研究におけるやむを得ない制約と、理論研究における発展という両面を踏まえて、現在の進捗状況は「おおむね順調」と言って差し支えないものだと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
平成29年度に研究代表者が産休を取得したことに伴い、研究期間を1年間(平成33年度まで)延長するための申請を行なった。 平成30年7月には「空間の再編」をテーマとした国際会議のセッションでの研究発表が決まっており(ISA世界大会、於トロント)、この場をさらなる研究の発展と国際的な人脈づくりの場として活用する。 当初計画していた三つの小テーマ((A)援助コミュニケーションに注目した包摂と排除の研究、(B)フーコーの統治性論およびブルデューの実践論との比較検討、(C)「移民の自律性」をめぐるシステム理論的アプローチ)に関しては、初年度の研究の展開ならびに平成30年度に行う空間論的アプローチとの繋がりから、当初の順番を変更し、(C)(平成31年度)(A)(平成32年度)(B)(平成33年度)の順で重点的に取り組む。またドイツにおける調査は、ミュンヘンとベルリンで活動する「移民による移民支援」の諸団体を訪問する予定で準備中であり、以後継続的に調査訪問をする。 以上より、平成33年度までに、当初の研究目的を達成する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者の妊娠・出産に伴い、当初計画していた海外での調査を延期したため、35万円ほどの差額が生じた。海外での調査については、できるだけ早期の開始を目指して準備中である。また、産休の取得に伴う科研費の助成期間延長承認申請を行なっていることから、初年度の残額については、主に最終年度(一年間の延長期間)の使用分に充当する予定である。
|