2019年度は、本研究課題の最終年度にあたる。最終年度に行った作業は、大きく2つである。 まず、昨年度までに引き続きデータ収集の作業を行った。具体的には、大宅壮一文庫のデータベースを用いて、2010年代における婚外性愛に関連する記事などの収集を行った。 もう1つは、すでに収集していた新聞紙上の人生相談を分析した成果の論文化である。この論文化の成果は、2019年12月に家族問題研究学会の学会誌『家族研究年報』に研究ノートとして投稿した。掲載が決定されれば、2020年7月に刊行される予定である。内容としては、2019年3月に比較家族史学会の学会誌『比較家族史研究』に掲載された研究ノートが、配偶者の婚外性愛をめぐる相談に対する回答を支える規範的論理を分析していたのに対して、今回は自分自身の婚外性愛についての相談とそれに対する回答がどのように編成されているかを分析している。さらに詳細について述べれば、以下の通りである。相談者は自身を非難したり、自らの感情やふるまいを自由意志を欠くものとして記述したり、「正しさ」を欠いた結婚生活に替えて、より「正しい」結婚生活を始めることができないという「道徳的な悩み」を語ったりすることで、悩みの相談を相談とそれに応じた助言に値するものとして編成する。回答においては、ほとんどの場合、婚外での関係の解消と新しい結婚生活のいずれが是とされるかは二者択一で、婚外での関係と現在の結婚生活の「両立」を認める回答は数のうえで例外的であるのみならず、回答者によって例外として構成されたりもする。これらの意味で、結婚と性愛を結びつける規範からの逸脱である自分の婚外での性愛についての相談とその回答は、その理解可能性を当の規範によって支えられている。
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