本研究の目的は、性別違和を覚える人々のジェンダー/セクシュアリティと、商業世界との関係性について明らかにすることである。最終年度を迎え、質的調査という性質もあって、少し視点をずらしながら、最終的な着地点としては、商業世界との関係というだけに留まらない、より重要な知見を得ることができたといえる。 これまで、性別違和や、ジェンダー表現に関することがらは、アイデンティティや医療化、人権などの問題に結びつきアカデミックに議論され、問題化されてきた。しかしながら、性別違和について考える際に商業世界との結びつきはそれほど重要視されてこなかった。国内では「性同一性障害」概念の成立時に、異性装者や、商業世界と結びついた人たちが、社会運動のなかで異種なものとして切り離されたという歴史があるが、その後、その周辺に置かれた人たちの研究も十分になされてこなかった。そのため、LGBTQ+のイシューの周辺に置かれた人たちに着目することには意義がある。この人たちが商業世界とどう向き合っているかを明らかにするために、関西大学の宮田りりぃ氏の協力を得て、女装者コミュニティや、その周辺にある、映画館や個室ビデオ店、などの商業的な場の参与観察やそのスタッフたちにインタビューを行い、状況を包括的に把握するよう努めた。 このことによって、これまで都市の機能とは何かの問い直しを行うことができたこと、また、不可視化されてきた女装者コミュニティの成員たちの活動や、コミュニティの特徴、そして人々が抱えるリスクや脆弱性とは何かを考察することができた。また、トランスジェンダーやゲイコミュニティとは違うものという境界の認識が、人々の脆弱性やリスクを不可視化させていることが明らかになった。
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