研究課題/領域番号 |
17K13851
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
税所 真也 東京大学, 高齢社会総合研究機構, 特任助教 (60785955)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 成年後見制度 / 社会化 / 社会学 / 生命保険会社 / 住環境支援 / 家計の個計化 / 世帯分離 / 生活協同組合 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,成年後見制度の運用について,民間企業・行政・後見人選任基準の連関関係の中から描き出し,特徴と問題点,さらには課題を明らかにしようとするものである.ケアの社会化が叫ばれる中,成年後見制度はこれまで社会学の研究対象とはされてこなかった.年金制度・介護保険制度を通して一定の達成が図られてきた「扶養の社会化」と「介護の社会化」の議論を拡張し,「介護の社会化」論を補完・延伸させるものとして成年後見制度を位置づけた.すなわち,本人の意思決定にかかわる――財産の支出をともなうケアの処遇方針の決定やケアマネジメント管理・調整,責任役割等の――領域を「介護の社会化」論のうちで扱う視座を提示した. 成年後見制度が社会学の分析対象として重要なのは,判断能力が不十分となり個人の主体性が失われていく中で,社会がそれら個人をどのように扱い,個人と社会がいかに対峙していくかといった社会的判断が,当制度の利用と運用のプロセスのなかに深く刻み込まれているからである. 以上のサービスの決定権限レベルの社会化がどのように図られようとしているかを,制度利用者および家族,行政,民間企業(生命保険会社),家庭裁判所,専門職後見人,福祉専門職,市民後見人(生活協同組合)といった成年後見制度に携わるアクターの視点から描いた.個々の分析と考察に際しては,「成年後見の社会化」という法律上の概念を社会学的な問題関心にもとづいて捉え返し,再構成することにより,成年後見制度の実態と課題(当初の理念との相違,そしてあるべき真の社会化のあり方)を浮き彫りにし,提示した.これら一連の研究成果を単著『成年後見の社会学』(勁草書房)にまとめ,2020年2月に刊行した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究を通して,成年後見制度を社会学の研究課題として位置づけた.本研究の意義は,これまで社会学の研究対象とされてこなかったものを,社会学の問題関心と分析課題の俎上に載せたことにある.すなわち,成年後見というテーマがきわめて広範な研究領域とのつながりをもつことを示し,それぞれの分野の問題関心や先行研究と結びつけながら分析した点にある.具体的には,家族社会学や福祉社会学のみならず,家庭経済・生活経営の研究,金融・生命保険・不動産の研究,住環境(住まい方の)研究,生協福祉の研究といったように,大きな広がりをもつ多様な研究群のなかも,成年後見制度の研究を位置づけたことである.さらにこれらの研究成果を,単著刊行,シンポジウム・研究会等での報告を通して多分野の研究者と交流することで,社会学からの知見を共有し,相互の研究理解を推し進めることができた. 以上のように,本研究課題の遂行を通じて,当初の想定を超えた十分な研究成果と多分野に拡がる波及効果が得られた.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は,本年度で本研究課題の最終年を迎え,終了する予定であった.また本研究課題に対する十分な成果も得られた.ただし,研究課題の一部について,新型コロナウイルス感染症の拡大にともない,計画を中止し,次年度に延期せざるを得ないものがあった.それが将来,成年後見制度の利用を迫られる障害者家族の親亡き後問題に関する調査である.これについては,新型コロナウイルス感染症の状況が改善されるのを待ち,中国地方でのインタビュー調査を実施する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の拡大にともない,2020年2月に予定されていた出張がキャンセルとなり,予定されていたフィールドワーク調査を遂行することが叶わなかったため,当計画を次年度に延期することになった.これについては次年度使用額として充てることにする.
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