本研究の目的は,認知症高齢者・知的障害者・精神障害者など,判断能力が不十分だとされた人びとが,社会の中でどのようにして成年後見制度の利用を社会から迫られているかを明らかにしようとするものであった.とくに,民間企業・行政・家庭裁判所における後見人選任基準の連関関係から,それを導きだし,福祉社会学・家族社会学・家族関係学・地域福祉・社会政策といった関連する学問分野のうちに,共通の問題関心として上記を定置させることを試みてきた.本研究課題の遂行を通して,この目的はおおむね達成できたといってよい. とりわけ,法学的な議論だけでは掬いきれない,本人の居場所やケアの処遇決定といった身上監護・生活支援の側面を,インタビュー調査を通じて社会学の立場から描き出した点,これにより,「介護の社会化」の転用として始まった成年後見の社会化と概念が,民間企業による制度普及,申立て費用の社会化,脱家族化/専門職化としての社会化,家計管理の社会化,協議の場としての社会化,脱専門家としての社会化など,多義的な用法に開かれていくプロセスを分析し,成年後見の社会化のあり様をその豊かな可能性とともに描き直した点が評価される. 従来のケアの社会化論が,おもに年金制度や介護保険制度を通した扶養と介護の問題を扱ってきたのに対し,ケアの意思決定や管理・調整などマネジメント責任の領域,さらにその先にある看取りの社会化まで議論を発展させたことは,ケアの社会化論の拡張という社会学理論への貢献にもつながるものだった. 以上の通り,成年後見という法律上の概念を,社会学的に再構成したことを到達点として,本研究課題を終了した.
|