研究課題/領域番号 |
17K13857
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研究機関 | 明治薬科大学 |
研究代表者 |
高野 麻子 明治薬科大学, 薬学部, 講師 (90758434)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 監視 / 身体管理 / データ / 優生思想 |
研究実績の概要 |
本研究は、近年の監視が「空間の監視」から「身体の監視」へと重心を移すなかで、生身の身体が晒される新たな経験と権力構造を、近代から現代に至る歴史的変遷のもとで明らかにすることを目的としている。この目的を達成するために本研究は文献・資料調査を中心に4つの作業を必要としている。 それらのなかで、本年は2つの作業、①「生体認証技術の誕生と優生思想の関係」と、②「戦後日本の再編と身体管理の思想」を行った。①は、昨年度から継続している作業であり、生体認証技術が誕生した背景と使用されるプロセスに、個人識別だけでなく優生学的関心が存在していたことを明らかにするものである。とくに本年度は、②「戦後日本の再編と身体管理の思想」の分析へと展開するにあたり、日本の状況に焦点を当てた。すなわち、1920年代頃から日本で指紋への関心が、個人識別だけでなく、人類学、遺伝学、法医学の分野へと広がっていたこと、そしてその研究の中心的役割を果たした法医学者・古畑種基の研究関心の変遷を追った。なぜなら、古畑は指紋の模様の出現率に基づき人種を分類する「指紋示数」を算出する数式を生み出した人物であり、当時同じく人類学的、医学的に関心を集めていた血液型の研究も行っていたからである。古畑は、日本における生体認証技術と優生思想との関係を考えるうえで、鍵を握る存在である。さらに彼の研究は戦後日本の優生学的思想にも影響力を持っており、これにより①と②の作業を接合させることが可能となった。 本年度で得られた研究成果は、2019年度のドイツ現代史学会で報告するとともに、現在論文にまとめる作業を行っており、来年度に刊行される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
学内の留学制度を利用して2018年8月から2019年3月末までカナダに留学したため、本研究課題にかけられる時間が予定より少なくなったことで遅れが生じている。具体的には、本研究が予定している4つの作業のうちの2つ、「戦後日本の再編と身体管理の思想」と「監視社会の新優生学的知」の作業である。前者は現在まとめの段階に入っており、その結果を踏まえて後者の分析と比較・接合の作業を、来年度に行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は全体で4つの作業(①「監視社会の理論的変遷と技術的展開の整理」、②「生体認証技術の誕生と優生思想の関係」、③「戦後日本の再編と身体管理の思想」、④「監視社会と新優生学的知」)を予定している。そのうち、最終年度は、引き続き③の作業を進めながら、これまでの作業の①と④、②と③をそれぞれ接合し、比較・参照していく。これにより、本研究の目的である近代から現代に至る「身体を意味づける」ことで達成しようとする秩序化の実践とそこに内在する暴力を描き出すことができる。
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次年度使用額が生じた理由 |
学内の留学制度を利用して2018年8月から2019年3月末までカナダに留学したため、その期間に当初予定していた研究が遂行できなかったこと、さらに新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、年明けに予定していた出張がすべてキャンセルになったことで、当初予定していなかった次年度使用額が生じてしまった。 今年度は最終年度であり、研究成果を発表するための旅費を想定していたが、今のところ、すべての出張がキャンセルとなっているため、未確定の部分が多い。現時点では、書籍や資料の購入に予算を当てる予定である。
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