本研究は、身体管理に内在する暴力、とりわけ「個人を分類し意味づける」行為に発生する統治の権力構造を明らかにすることで、監視社会論を歴史社会学的に考察することを大きな目標としている。これを達成するために、本研究では、文献・資料調査を中心に4つの作業(①「監視社会の理論的変遷と技術的展開の整理」、②「生体認証技術の誕生と優生思想の関係を明らかにすること」、③「戦後日本の再編と身体管理の思想の整理」、④「監視社会と優生学的知の関係を明らかにすること」)を進めてきた。 最終年度である本年は、これまで個別に実施していた①~④の作業を接合し、過去から現在における身体管理に内在する不可視化された暴力に関する論文を2本執筆した。1つ目は、オンラインとオフラインが混ざり合う世界に生きる身体の経験の変化を、近代における身体管理の実践とその先にあった優生政策を参照しながら、分析したものである。現代の身体管理は膨大なデジタルデータの解析に依拠しており、その新しさに注目が集まるが、歴史的な視座から考察することで、人びとを分類し、選別し、価値づける実践が根強く存在し続けている点を明らかにした。2つ目は、主に監視資本主義が生み出す現代の身体管理に着目し、「未来を知るために個人を意味づける」実践が、次第に「個人の意思を誘導・操作する」実践に向かっている実態と、そこに内在する暴力について論じたものである。両者はともに、書籍(分担執筆)として出版できるように準備を進めている。
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