2019年度は、前年度に引き続き、日本と韓国におけるニーズ対応型社会起業に関するフィールドワーク及び事例調査を行った。日本の調査では、社会福祉協議会及び社会福祉法人施設による地域福祉活動に関連するサービス開発や事業化に着目し、5つの社会福祉協議会と3つの社会福祉法人施設を対象に、福祉サービスの開発に関する実践の現状や事業開始の背景、ニーズ対応の戦略や事業化について聞き取り調査を行った。また、韓国の調査については、ソウルと釜山の5つの社会的企業への視察を行うとともに、ソウルの「グァンジン社会的経済ネットワーク」に属される社会起業家及びネットワークの創設・運営関係者を対象にインタビュー調査を行った。 本研究は、社会起業の手法を用いて制度の狭間にある福祉ニーズを解決するための新たなサービスを開発し事業化していく、「福祉ニーズ対応型社会起業」の実践プロセスおよび活性化・阻害要因、また、実践主体である社会起業家のマネジメント特性を明らかにすることを目的としたものである。この3年間、日本と韓国でのフィールドワークや事例調査を通して、主に以下のことを明らかにすることができた。 1)福祉ニーズ対応型社会起業は、多くの場合、潜在的クライエントや地域課題への問題意識を抱く社会福祉従事者の実践から始まる。2)実践現場における理想と現実の乖離は、新たなサービスやその提供組織への立ち上げ(起業)の動機づけとなる。3)起業や事業化を活性化するためには、利用者本位のサービス設計だけでなく、既存の制度や資源を活用しながらビジネスとしての持続可能性を担保するための努力や経営マインドも重要である。4)一方、韓国の社会起業育成策や中間支援組織に関する調査からは、制度や支援ありきの社会起業の育成は、短期間では成果が期待できるが、長期的には組織や活動の自律・自律経営を阻害する要因になる恐れがあることも示唆された。
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