児童養護施設では,様々な障害をもった児童の入所率が増加していることが指摘されているが,これまでの研究では,障害種別の中でも特に知的障害や境界域の知的能力をもつ児童の割合が増加していることを示してきた。本研究では,課題となっている知的障害あるいは境界域の知的能力をもつ児童に対する支援モデルを提示するため,経時的な実態把握や支援事例の抽出を行った。昨年度までは,個人情報保護に配慮しつつ,研究対象となる児童の知的発達や適応状況に関するデータ収集および,協力施設における過去の事例について情報収集し,心理職の支援過程について情報収集を行ってきた。本年度は調査を継続するとともに,分析と成果公表を行った。児童養護施設に入所している773名の高校生の就学状況に関する調査からは,入所児童の高校中退率は19.3%と高い割合であることが示された。就学継続の困難に対して,性別,被虐待経験の有無,入所期間の長さ等との関連をロジスティック回帰分析によって検討した。その結果,入所期間のみが有意な影響を与えていることが示された。障害の有無はリスク要因として有意ではなく,中学校以降の時期に施設入所になった児童において高校中退のリスクが高く,高年齢で入所する児童へのケアと教育的支援を特に重視すべきであることが示された。個別事例の抽出からは,学年が上がるに連れて周囲とのギャップが広がり,就学中に通常学級での教育から特別支援教育の枠組みに移行した児童において,その後の学校適応や進学への意欲が難しくなり,不登校や逸脱行動など困難な状況に陥るケースが示された。ケアと教育的支援にあたっての多機関連携の重要性と,就学環境の変化に関する対象児本人への十分な説明を行うことの重要性が示された。以上の研究成果について,国際学会における発表と学術論文の作成を行った。
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