本研究における主たる研究課題は2つあり、1点目は社会事業研究所という組織の把握や、どのような研究が行われたのかという活動の全体像を明らかにすることである(研究課題1)。そして、2点目の課題は、戦時体制下で社会事業研究所の一部の所員が特高警察に検挙されたが、それが社会事業の歴史においてどのような意味があったのかについて分析することである(研究課題2)。 研究最終年度の2019年度は、主に研究課題1に取り組み、戦前の社会事業研究所が主にどのような研究を行っていたかについて、社会事業研究所が出版した図書をもとに分析を行った。その結果、1934年から1937年までは、保育や児童、保健医療、海外の動向等についての研究が主に行われており、日中戦争が始まった翌年の1938年には戦時における社会事業や保健・医療に関する図書が相次いで出版されていた。その後、1939年に社会事業研究所は組織再編及び拡大されたが、そこでは歴史、保育、保健婦、農村調査などの研究が行われ、各県の社会課や方面委員連盟等と共同研究が進められるなど、社会事業研究の広がりを見せていた。だが、1943年の所員の検挙や、戦時体制が進む中で研究環境が悪化し、物資の入手が困難になったことなども相まって、1944年以降は研究活動が徐々に縮小したことが明らかとなった。 研究課題2については、前年度に社会事業史学会第46回大会にて研究発表を行った成果を踏まえ、社会事業研究所所員が検挙された背景に関する考察についての論文を発表した。
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