全体を通した本研究の当初の目的は、自由意志(自分自身の心理状態にそって行動を選択する能力)に関する人々の概念にどのような課題があることを明らかにすることであった。またその課題をふまえ、「人々のウェルビーイングを維持する」という観点からどのような対処方略が可能かを検討することも目的としていた。前年度までの研究を通して、自由意志信念が強い人ほどウェルビーイングが高いこと、さらに決定論の信念が強い人ほど自由意志信念の低下によりウェルビーイングが低下する場合があることが示唆された。令和2年度の研究では、こうした自由意志信念、決定論に関する信念、ウェルビーイングという3つの変数間の関係性について、より踏み込んで検討をおこなっている。その結果、運命論(どのような行動をとっても結果は同一になる)の要素をふくむ場合、決定論に関する信念は自由意志信念やウェルビーイングを低下させるが、運命論の要素を排除すると、決定論に関する信念が自由意志信念やウェルビーイングを低下させる効果は弱くなっていた。ただし、このような運命論の効果は、かならずしも一貫して観察されたわけではない。申請者はこれまでに、自由意志に関する人々の概念分析の研究知見をふまえ、決定論やウェルビーイングとの関係性を検討してきたが、これらの関係性を議論するうえでは、決定論に関する人々の概念も分析する必要があることを、本研究の知見は示唆しているといえるだろう。
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