本研究課題は,円滑な対人関係構築の要となる他者の顔に対する気づきやすさの心理的基盤を,主に顔魅力の差異の観点から解明することを目的としている。 2021年度は最終年度であり,(1)これまでの成果を論文としてまとめ,また(2)直感的な魅力評価機序に身体的反応の生起が介在する可能性の検証をさらに推進した。 顔画像同定課題における顔魅力の影響に関しては現在論文を準備中であり,査読付き論文として投稿する途上にある。これは,短時間提示時の魅力差の無意識的な知覚メカニズムが顔に対する直感的な瞬時の判断を成立させている可能性を示すものであり,他者の顔に対する気づきやすさが直感的な魅力差の知覚とも関連しうることを示唆する。また,直感的な魅力評価機序に身体的反応が介在する可能性についても,瞳孔反応や重心動揺を指標として検証を進めてきた。瞳孔反応を指標とする検証では,成人女性顔に対する魅力知覚がヒト以外に対する魅力知覚とは異なる反応を示すこと,成人女性顔に対する反応では魅力の違いに応じて瞳孔反応が異なることを見出した。当該研究成果は,すでに査読付き論文として公開されている。また重心動揺を用いた検証においても,成人女性顔の魅力に応じて接近回避反応が生じており,これはヒト以外の画像に対しては観察されなかった。当該研究成果に関しても論文にまとめ,現在審査中である。 以上より本研究では,他者の顔への気づきやすさには顔魅力の差異を手掛かりとした心理メカニズムが存在し,身体的反応がこのメカニズムに介在している可能性を示唆した。
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