本研究は、多様な価値や利害が存在する社会において、特に話し合いに着目して、葛藤解決をもたらすための共通の基盤の形成過程とその要件を検討することが目的である。個人の利益追求は、必ずしも社会全体の利益にはつながらない。こうした利害葛藤の解決のために、話し合いを通じて、個人、そして社会にとって望ましい共通目標を形成・共有する必要がある。しかし、人々の差異は、話し合いにおける互いの差異を浮き彫りにし、葛藤状態を深刻なものにしかねない。そのため、それぞれが事前に持っている価値にとらわれず、共通の基盤を形成する必要がある。本研究ではゲーミング・シミュレーション(以下、ゲーミング)を用い、人々が与えられた社会構造やルールを自分なりに解釈し、自身の行動や社会の仕組みを変化させながら既存の枠組みにとらわれずに創造的に問題に取り組み、目標に向かう過程を検討する。 本研究では、集団間の多様性も検討するために、複数の下位集団を内包する上位集団が存在する重層的な社会構造を想定し、個人と下位集団、上位集団の利益がそれぞれ対立している入れ子型の社会的ジレンマを基本的な枠組みとして、企業における社会貢献や海面利用に関するゲーミングを開発、実施した。参加者は、同じ価値や利害を持つものとの話し合いで結論を得ることを優先し、異なる立場にあるメンバーとの話し合いを保留し、話し合いが人々の関心を内集団としての下位集団に向かわせうる可能性が示された。さらに、異なる立場の人々が負担の配分を話し合い、その決定を経験したのちに公共財供給に関する意思決定を行うゲーミングを開発、実施した。話し合いでは立場が異なることで、不遇な立場に置かれたプレーヤーが自身の状況を言い出すことが困難となり、多くの負担を強いられ、その後の個人の意思決定で非協力行動を選択するような行動も観察された。
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