2019年度はこれまでの研究で明らかにしてきた社会的弱者のネガティブなイメージを改善するための検討を行った。具体的には,ステレオタイプが能力と人柄の2次元から構成されているという知見を踏まえた上で,ステレオタイプ抑制という手法を用いた実験室実験を行った。他者に対してステレオタイプ的な判断を避けようとする試み(ステレオタイプ抑制)はかえってステレオタイプを意識してしまい,想起しやすくなることがある。よって,抑制をする際には,ステレオタイプの代わりに考える代替思考の内容が重要になってくる。 実験では,ニートに対するステレオタイプ抑制を行う際に,単純に抑制する場合と,人柄について考える条件,能力について考える条件を設定し,抑制方略によってステレオタイプ改善の効果が異なるのかを検討した。実験の結果,人柄や能力といった代替思考を考えるよりも,単純にステレオタイプ抑制を行った条件で,イメージが改善された。この結果は当初の予想に反する点もあるため,結果の解釈を慎重に行う必要がある。 以上の研究も含め,3年間の研究によって,(1)日本において貧困者などの社会的弱者は「冷たく無能」というステレオタイプがもたれていることを明らかにし,(2)「無能で冷たい」という能力・人柄のネガティブなイメージが併存する場合に,困窮している状況の原因を「怠慢」と帰属する傾向が強く,イメージが悪化することが示された。こうした社会的弱者に対するバッシングのプロセスを明らかにしたうえで,(3)イメージの改善方略を検討することができた。ただし,イメージ改善方略については,抑制対象や抑制状況の設定などを再検討する余地も残されているため,概念的追試を行うなど,慎重な議論を行っていく予定である。
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