研究実績の概要 |
心的数直線(mental number line)は,幼児・児童の数能力の発達を測定する上で最も重要な指標の1つであり,1から順に等間隔に数を表象する能力である。この心的数直線が形成されることによって,数の保存課題や文章題を正確に回答できるようになることが知られている(岡本, 1995)。しかしながら,その形成過程や関連する要因については,十分に明らかにされているとはいい難い。Okamoto(2010)は,心的数直線の形成に関して,すぐに抽象的な数直線が形成されるわけではなく,その前段階で具体的な経験に基づく心的モノ直線(mental“object” line)が形成されると主張している。しかし,Okamoto(2010)はこの“モノ”がどのようなものであるかについてまでは言及していない。そこで,本年度は,その“モノ”が手指であると仮定して,6歳児から8歳児を対象に心的数直線の形成程度と手指認識(正確に自分の手指の形状をイメージする能力)の関係を検討した。 使用した心的数直線の課題は,1 と10 を両極とした数直線が記載された用紙を子どもの前に置き,1試行ごとに2から9までの数字を無作為に提示し,提示された数の正しいと思う数直線上の位置を指さすよう子どもに求めた(Siegler, 2004)。心的数直線が十分に形成されていない子どもは,数の間隔が等間隔にならない。手指認識は,目隠しした状態で触られた2本の手指を識別できるかどうかで測定した。両者の関係を検討したところ,月齢や視空間的な記憶能力を統制してもなお,両者に関係が見られたことから,心的数直線が手指を基盤に形成されていることが示唆された。
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