心的数直線は,幼児・児童の数能力の発達を測定する上で最も重要な指標の1つであり,1から順に等間隔に数を表象する能力である。心的数直線の形成に関して,Okamoto(2010)は,すぐに抽象的な数直線が形成されるわけではなく,その前段階で具体的な経験に基づく心的モノ直線(mental “object” line)が形成されると主張している。しかし,この“モノ”がどのようなものであるかについてまでは明らかにされていない。従来,心的数直線を測定する課題として,直線の左端に0,右端に10が記載されたものが使用されており,0から始まることになる。しかし,手指を使用して数をかぞえる際にゼロからかぞえることはなく,1から数え始める。もし心的モノ直線のモノが手指に相当しているのであれば,1から数え始める数直線のほうが課題成績は良くなることが想定される。そこで,0と10を両極とする数直線課題と1と10を両極とする数直線課題の成績を比較することで,心的数直線と手指の潜在的な関連を検討した。 0-10の数直線課題では,1から9までの数を順に提示し,それぞれの位置を数直線上で指し示してもらった。1-10の数直線課題では,2から9までの数を順に提示し,それぞれの位置を数直線上で指し示してもらった。数直線課題の分析では,まず,提示数ごとに左端から指し示した位置までmm単位で測定し,見積もった数の値とした。そして,見積もりの正確性については,『(|提示した数の位置-見積もられた数の位置|)÷数直線上の数値の間隔』で算出した。分析の結果,1-10の数直線課題のほうが見積もりが正確であったことから,この時期には0から始まるような抽象的な数直線が形成できているわけではないと考えられる。今後は,手指の利用の仕方との関係を検討する必要がある。
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