研究実績の概要 |
本研究の目的は、親の老いの認知が青年期から成人期にわたる親子関係に与える影響について明らかにすることである。令和1(2019)年度は、親の老いの認知がおとなになることの自覚(大人感)に与える影響を交差遅延モデルによって検証するために、3時点の縦断調査における3回目のweb調査を行った。 1回目は2018年5月に、2回目は2019年2月に行っており、2019年11月に3回目の調査を行った。最終的な調査回答者は、459名(男性232名、女性227名)であった。父親と母親それぞれの関係について、平成29(2017)年度の研究成果に基づいて作成した親の老いの認知を尋ねる12項目(1回目は1年間、2回目と3回目は9か月間の「親の老いの否定的認知」と「親の老いの肯定的認知」)、大人感を測定するためのアイデンティティ段階解決尺度(Identity Stage Resolution Index; ISRI)6項目(コテ, 2015)、親子関係に関する質問などについて尋ねた。また3回目の調査では、調査期間中の親子関係に影響した出来事も質問した。 交差遅延モデルによって、親の老いの認知と大人感(ISRI)の相互関係を検討した。その結果、おとなになることの自覚によって、女性では父親の老いの否定的認知が低減し、男性では父親の老いの肯定的認知が促進されることが示唆された。また男女共に、母親の老いの否定的認知がおとなになることの自覚を低減し、おとなになることの自覚によって母親の老いの肯定的認知が促進される傾向が示された。親の老いの認知と大人感(ISRI)に加えて、各調査時点における親の老いの程度、親を支えようとしているというかかかわり方についても、それぞれの相互関係を交差遅延モデルによって検討した。本研究の成果は、少子高齢社会が進行する現代日本において、長期化する親子関係の理解に貢献することができる。
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