本研究は,情動調整に影響を及ぼす不快情動に対する態度について,これまで十分な検討が行われてこなかった不快情動に対する接近的な態度である「不快情動への開放性」を新たに概念化し,その情動調整過程における機能を解明することによって,不快情動に対するより適応的な情動調整について検討することを目的としている。 令和三年度は,「不快情動への開放性」の情動調整が行動に及ぼす影響を検討することを目的とした。具体的には,大学生のキャリア選択・適応行動や保護者の幼児に対する子育て行動に注目した検討を行った。 大学生については,「不快情動への開放性」が大学への移行の際のキャリア適応行動に及ぼす影響を明らかにすべく,大学1年生を対象としてリアリティショックの抑制効果について検討した。その結果,「不快情動への開放性」を有している1年生ほど,失敗を学習の機会と考える価値観を介し,移行の際に生じたリアリティショックに対して克服していこうという挑戦的態度を有していることが示された。さらに,大学3年生を対象として大学から職業社会への移行の際のキャリア選択行動に及ぼす影響を明らかにすべく,自己形成活動およびキャリア探索行動や就職活動の促進効果について検討した。その結果,「不快情動への開放性」を有している3年生ほど,自己形成活動やキャリア探索行動を行っており,就職活動も積極的に行っていることが示された。 保護者については,「不快情動への開放性」が幼児期の保護者の養育態度や幼児の不快情動調整困難場面である泣き場面での幼児への言葉かけ,さらには,幼児の情動調整の発達に及ぼす影響を検討した。その結果,「不快情動への開放性」を有している保護者ほど,幼児が泣いているときにかけた言葉がけが子どもの情動調整を促すと認識しており,そうした経験を通して幼児は不快情動を表出する能力を育む可能性が示唆された。
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