平成31(令和元)年度では、研究1「指示対象付与と心の理論・視点取得との関連」に関する行動実験の分析と考察、および研究3「幼児の指示対象付与の神経基盤の特定」について、近赤外分光法(NIRS)を用いた調査の結果の分析と考察を行うことを予定としていた。 研究の進捗状況としては、当該年度に研究1および研究3に関する考察や議論を進めることができ、国内外の学会にて発表を行った。 結果の概要としては、指示対象付与課題において曖昧な発話を解釈する能力と、誤信念課題(心の理論課題)に通過する能力との間には正の関連が示された一方で、他者の見え方と自分の見え方との違いをふまえて指示対象を同定する視点取得課題と、指示対象付与課題との間には弱い負の関連が示唆された。 また、NIRSを用いた調査結果としては、話題の切り替えに対応する時に重要だと考えられる認知的能力(認知シフト)と関連する前頭前野の賦活は、曖昧な発話を解釈する時には顕著にみられず、文脈に沿った発話解釈を行う時には前頭前野の活動はほとんど関連がないことが示唆された。 研究期間全体を通じて、本研究は、指示意図を解釈する語用論的処理(指示対象付与)に着目し、社会的場面(他者とのやりとり場面)における幼児の指示対象付与の発達過程を、行動実験と神経科学的手法を用いて解明することを目的とした。主な知見としては、①曖昧な文脈をふまえて指示対象を付与を行う能力は幼児期(3~5歳)を通して発達すること、②指示対象付与を行う能力は、他者の心的状態を推測する能力(心の理論)の発達と正の関連を示すこと、③発達障害幼児は定型発達児と比べて指示対象付与課題の成績が量的・質的に異なることが示された。
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