本研究は、刑事施設での調査実施を予定し内諾を得ていたが、刑事施設の体制の変化から調査実施が困難となり、調査対象施設を精神保健福祉センターに変更して実施した。また、調査期間中に、COVID-19の世界的な感染拡大が生じたために、さまざまな制約がある中で研究を実施することを余儀なくされた。 本研究では、文献調査および質的調査を実施し、薬物からの回復支援プログラムを策定し、社会実装につなげた。薬物使用者を対象とした文献調査からは、薬物事犯者を含む薬物使用者が、過酷な人生を生きる中で自己治療的に薬物を使用するようになってしまったが、薬物を使用している後ろめたさを感じながら生活している者や、薬物を止めることができない自分を否定していることなどが明らかになった。 精神保健福祉センターで3年以上プログラムに参加している男性を対象としたインタビュー調査からは、犯罪者としてではなく、治療を要する依存症者として扱われていたことや、回復を強要されずにプログラムに参加することを促されたことが、プログラム参加へのモチベーションにつながっていたことに加えて、他の参加者の会話から断薬のヒントを得たり、さまざまな気づきを得ていることが示された。また、自分以外にも薬物使用からの回復に悩んでいる人がいることを知り、不必要に自分を否定したり、責めたりすることが減ったことも明らかになった。 困難な状況に接した際に、親しい友人に接するように自分に接し、自分に対して向ける思いやりのことをセルフ・コンパッションと呼ぶが、上記の知見から薬物使用者の支援においては、セルフ・コンパッションを高めるアプローチが必要であると考えられた。そこで、セルフ・コンパッションを高めるためのプログラムを策定し、千葉県精神保健福祉センターで使用されている薬物依存回復プログラムのテキストに掲載し、本研究の知見を社会実装した。
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