研究実績の概要 |
電車内痴漢は,わが国に特有の犯罪形態であり,海外の標準的なプログラムに基づく既存の性犯罪再犯防止指導においては十分な改善効果が確認されていない(法務省矯正局・保護局,2013)。このような課題の解決には,適切な心理学的介入技法の選定と評価が必要不可欠であり,認知的反応傾向としての「性犯罪関連刺激に対する反応傾向」に基づく特徴の記述と状態像の分類を行うことが重要であると考えられる。そこで,本研究では,特定の刺激(性加害対象)と反応傾向(性加害行動)を媒介している認知的反応傾向である「刺激の評価」と「刺激へのとらわれ」に基づく電車内痴漢の心理的特徴の記述と分類を目的とした。 平成29年度は,「刺激へのとらわれ」の測定を目的としたViewing Time Task(東本・五十嵐・小堀・野村・伊豫,2013;VTT)の妥当性の検討を目的とした調査を実施し,性犯罪をした者と犯罪経験のない者の比較においてVTTの得点差が確認されるなど妥当性を担保する結果が示された。その後,平成29年度から平成30年度にかけて,刑務所の被収容者を対象に「刺激の評価」と「刺激へのとらわれ」に関する質問紙調査を実施し,電車内痴漢が該当する一群において,その他の群とは異なる「性犯罪関連刺激に対する反応傾向」が確認され,日本犯罪心理学会第56回大会にて口頭発表を行なった。 これらの結果を受け,「刺激へのとらわれ」を測定するVTTと「刺激の評価」を測定するSingle-Target Implicit Association Test(Nomura & Shimada, 2011;ST-IAT)を用いた調査を実施した。データ収集過程の予備的な分析において,電車内痴漢をした者であっても「刺激の評価」と「刺激へのとらわれ」は一様ではなく,個人差があることが確認されている。データ収集を継続し,研究発表を行う予定である。
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