本研究の目的は、発達障害傾向のある大学生、大学院生の能力発揮促進に寄与する要因を明らかにし、能力発揮促進のための支援方略を検討することである。本年度の成果は以下の3点である。 1つめに,発達障害傾向と,心理的適応との関連について,本人の主観的困り感およびソーシャルサポートを媒介変数とした実証的検討を実施した。これまで,発達障害傾向と心理的適応との間には負の関連があり,また,発達障害とうつ病や不安障害との併発が高い頻度で生じることが指摘されていたものの,その背景に関する検討は少なかった。今回の検討では,発達障害傾向と4つの心理的適応(自尊感情,人生満足度,抑うつ,不安)との関連の多くは,本人の主観的な困り感とソーシャルサポートによって媒介されていることが示された。 2つめに,新型コロナウイルス流行下における高発達障害傾向学生の心理的適応に関する検討である。新型コロナウイルス流行下においては,人的接触や人が集合する機会が大幅に制限されたが,こうした状況が高い発達障害傾向のある青年にどのような影響を与えたのかについての検討は少ない。本研究では,2020~2021年にかけて実施された大学生対象のデータを用いて,コロナ禍における高発達障害学生の心理的適応について検討した。その結果,コロナ禍において発達障害傾向の高い学生の心理的適応は大幅に低下しており,発達障害傾向が高くない学生よりも低い水準にあった。一方で,発達障害傾向とコロナ流行前後の交互作用は見られなかった。 3つめに,学業,研究において高い能力を発揮するが,主観的な困り感の高い学生の事例検討を実施した。数ケースを分析した結果,学業や研究で高いパフォーマンスを発揮していることについての自覚はありながらも,日々の生活の中での情緒的な傷つき,不全感が高く,主観的幸福感の低い状態に陥っていることが明らかになった。
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