研究課題/領域番号 |
17K13949
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研究機関 | ルーテル学院大学 |
研究代表者 |
上田 紋佳 ルーテル学院大学, 総合人間学部, 助教 (60707553)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 不安 / 長期記憶 / ワーキングメモリ / 実行機能 |
研究実績の概要 |
不安症におけるネガティブな思考を抑制できないという特徴の背後には,ネガティブな情報を思い出しやすいという(長期)記憶バイアスと,ワーキングメモリの実行機能の機能不全がある。本研究では,高不安者の記憶バイアスと実行機能の機能不全の関係性を,ネガティブな思考の抑制困難の観点から,実験的に明らかにすることを目的とすることとした。 平成29年度は,本研究の不安症と実行機能に関する文献のレビューを行った。実行機能(以下,EF)は,認知的な制御や認知的な問題解決にあたるCool(Cold) EFと,感情制御や感情的な問題解決にあたるHot EFに大きく分類される。抑うつなどでは,Cool EFよりもHot EFの機能低下の影響が大きい可能性が指摘されている一方で,不安に関する実行機能に関する研究は,非常に少ないことが明らかになった。さらに,実行機能の単一性と多様性について,実験を行う際の新しい枠組みが必要であることが明らかになった。 また,平成29年度は,「不安」を測定する新たな尺度として,“体験の回避(experiential avoidance)”を測定する日本語版Acceptance and Action Questionnaire尺度の信頼性を予備的に検討した。体験の回避とは,第3世代の行動療法の一つとされるアクセプタンス&コミットメントにおいて,特定の個人的な体験や出来事(身体感覚や情動,思考,記憶,イメージ,行動傾向など)を経験することを嫌悪し,これらの出来事の形態や頻度,また,それを生じさせる文脈を変えようとするときに生じる現象であると定義され,体験の回避が不安をはじめとする心理的な問題を引き起こす一因であるとされている。この尺度について,ネット調査を行った結果,下位尺度である「Willingness」のα係が低いことが明らかになり,尺度の改善の必要性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では,初年度は,文献レビューの結果を踏まえて,高不安者の実行機能の機能不全を測定することが可能な実験課題の作成を行う予定であったが,実験実施まで行うことができなかった。その理由として,実行機能の単一性と多様性の両者の視点を考慮した実験課題の作成を行う必要があり,その実験デザインの設計に時間を要したことが挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は,次の二点を重点的に行う。第一に,高不安者の実行機能を高い精度で測定する実験課題を作成する。第二に,その実験課題を用いて,長期記憶の効率性とワーキングメモリの柔軟性の関係性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた大きな理由としては,予定していた海外出張に日程の都合で参加できなかったことに加えて,初年度に実施予定であった個別実験を行うことができなかったため,人件費および謝金の使用額が予定額を下回ったことがあげられる。 未使用分については,平成30年度実施予定の個別実験にかかる人件費および謝金に充てる予定である。
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