研究課題/領域番号 |
17K13960
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
大杉 尚之 山形大学, 人文社会科学部, 准教授 (90790973)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 視覚的注意 / 抑制 / 視覚探索 |
研究実績の概要 |
本研究では注意の抑制現象を実験的に作り出すパラダイムを用いて注意が極端に少ない位置を作り出し,その位置に提示された刺激の認識プロセスについて検討した。今年度実施した主な研究活動は以下の通りである。
非注意による見落としが,局所的な特徴検出の不全により生起する可能性について検討するにあたり,昨年度は先行研究のレビューを行なった。本年度は,レビューをまとめた論文が国内誌(認知科学)に受理された。また昨年度から,非注意による見落としが,局所的な特徴検出の不全により生起する可能性について検討するため,注意の抑制が生起した位置での線分刺激を検出および識別するまでの反応時間および正答率を測定してきた。昨年度は検出課題では先行研究と同様に先行刺激位置での成績が悪くなったが,識別課題では,先行刺激位置での成績は低下しないことが示された。本年度は,検出課題において線分刺激の大きさをパラメトリックに変化させて検討した結果,線分刺激の大きさが小さい場合には抑制に伴う見落としが生起したが,刺激が大きい場合には見落としは生起しなかった。以上より,非注意位置における見落としは1)「刺激強度」と「構え」の2つの要因による影響を受けること,2)刺激の出現を判断するような低次のプロセスの不全が生じていることが示された。
注意の抑制が日常場面における視覚探索課題に及ぼす影響を検証するために,視覚的印付けに伴う抑制が三次元空間マップ上の位置に生起するかについて検討した。実験では,探索刺激は配置を固定したままY軸を中心として回転したが,このような状況でも視覚的印付けは頑健に生起した。すなわち視覚的印付けに伴う抑制は三次元空間マップ内の位置に生起することが明らかとなった。この一連の研究成果をまとめた論文をVision Research誌に投稿し,アクセプトされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度,実施したことは主に次の4点である。1)前年度から引き続き心理物理実験を中心に行なった。検出課題において線分刺激の大きさをパラメトリックに変化させて検討した結果,線分刺激の大きさと見落としの生起の関係性を見出した。この成果を国内学会でポスター発表した。現在は,効果の頑健性を確かめるために追加実験を行っている。2)視覚的印付けの先行研究のレビュー論文を投稿し,「認知科学」に受理された。3)視覚的印付けに伴う抑制が三次元空間マップ内の位置に生起するかについて検討した。この一連の研究成果をまとめた論文をVision Research誌に投稿し,受理された。4)前年度に,非注意状態での視覚処理が記憶への符号化に及ぼす影響を検討するために,注意の抑制が単純接触効果に及ぼす影響について検討したが,本年度はこの研究成果の論文化を進めた。
心理物理実験については,実験パラダイムの最適化に難航し,研究の進展が遅れている。一方で,研究計画の見直しのために行なった先行研究のレビューが論文化される,または本来の研究計画よりも前倒しで行なっている「注意の抑制が記憶成績に及ぼす影響の検証」,「日常場面に近い三次元空間での抑制範囲の検証」など,前倒しで研究を開始した部分については研究成果を蓄積することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に得られた成果を論文にまとめ,国内誌および国際誌に投稿する。研究成果の蓄積が見込まれる2年次から3年次の研究計画を中心に行うとともに,課題が残る心理物理実験(1年次の計画)の挽回もはかる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は,学会参加,論文の英文校閲費用として,当初予定していた金額分を使用しなかったため次年度使用額が生じた。次年度における研究発表や論文投稿のために繰り越し分を使用する予定である。
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