本研究の目的は非注意(注意が向かない状態)での視覚特性を解明し,物体認識のどの段階における処理が非注意により不全になるかを検討することであった。この問題を検討するために,本研究では注意の抑制現象を実験的に作り出すパラダイムを用いて注意が極端に少ない位置を作り出し,その位置に呈示された刺激の認識プロセスについて検討した。一連の研究の成果を以下に示す。(1)注意が極端に少ない位置を作りだす実験パラダイムの最適化にあたり,視覚的印付け現象の関連論文をレビューし,注意の抑制が視覚処理に作用することを検討した研究が不足していることについて整理,指摘した。(2)非注意による見落としが,局所的な特徴検出の不全により生起する可能性について検討した結果,十分に刺激強度が高い(出現時の変化量が大きい)視覚刺激の場合は,非注意状態であっても見視覚処理に与える影響は限定的であることが示された。(3)抑制位置と非抑制位置における視覚的マスキング効果を測定することで,注意の抑制により作業記憶への符号化プロセスが不全になるかについて検討した結果,注意位置に比べて非注意位置では共通オンセットマスキングによる干渉効果が大きくなり,高次処理からのフィードバックプロセスが不全になる可能性が示された。(4)日常場面に近い刺激を用いて,実際の現実場面で行動と関連するターゲットの選択が優先されるのかについて検討する実験を行った結果,三次元空間内の位置に対して抑制が生起すること,遮蔽等によって物体が密集している状態であっても抑制が維持されることが示された。(5)視覚的印付け現象を用いた実験パラダイムでは,知覚的分節によるコストが生じること,知覚的分節によるコストとは独立に注意状態を操作した実験において,非注意位置でのコストが最大になることを発見した。また,最終年度にはオンライン実験により効果の一般性についても示した。
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