過去に経験した出来事の順序についての記憶を時間的順序記憶という。本研究の目的は、ラットの時間的順序記憶において海馬-内側前頭前野(mPFC)のグルタミン酸受容体が果たす役割を、行動薬理学的手法を用いて明らかにすることである。 2019年度は2018年度に引き続き、時間的順序記憶におけるmPFCのグルタミン酸受容体(NMDA受容体及びAMPA受容体)の役割を検討する実験を行った。ラットを放射状迷路の5本のアームに順に進入させ(見本期)、その1分後に見本期に提示されていたアームのうち2本を同時に開き、より古いアームへ再進入することを正選択とする(テスト期)、時間的順序記憶課題をラットに訓練した。課題獲得後に薬物投与テストとして、見本期の10分前にmPFCへNMDA受容体拮抗薬(AP5)またはAMPA受容体拮抗薬(NBQX)を投与した。その結果、AP5投与は時間的順序記憶の成績を低下させたが、NBQX投与は課題成績に影響しなかった。 さらに、mPFCのグルタミン酸受容体遮断が課題の時間的順序記憶以外の要素(空間記憶)に影響を及ぼすのか検討する実験を行った。時間的順序記憶課題と同様の見本期の後、テスト期に見本期の4番目のアーム(既知アーム)と、まだ進入したことのない新奇アーム1本を同時に開き、新奇アームへ進入することを正選択とする課題をラットに訓練した。課題獲得後、見本期の10分前にmPFCへAP5またはNBQXを投与する薬物投与テストを行った。その結果、AP5投与は課題成績に影響しないが、NBQX投与は課題成績を低下させた。
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