最終年度は本研究課題で得られた研究成果の一部をとりまとめ、論文の執筆を行った。その論文は、2020年11月18日にScientific Reports (*1)で出版された。 本研究課題が対象としていた音の質感の知覚機構は依然として不明なままであるが、本研究の最も重要な成果は、実験動物を用いてその機構を解明していくための基盤が確立できたことである。我々ヒトを含む動物は、脳の外から来る感覚刺激(音声を含む)を知覚し、その知覚に基づいて様々な判断及び行動を行う。動物が何を知覚したかを客観的に区別するためには、高い信頼性で知覚を行動から読み取る必要がある。この研究実績報告書の作成時点では論文の投稿準備中の段階であるが、*1の論文で示されている実験手法を更に発展させ、高い信頼性で知覚を行動から読み取ることが可能になった。このことは、質感の知覚機構のみならず、他の知覚機構を実験動物で解明していく上で大きな利点になると考えられる。 また本研究では、ヒトや動物の振る舞いに統計学的に有意な偏りがあるかを判断するため、計算機によるモンテカルロ・シミュレーションを用いた統計手法を開発した。そのうちの1つは*1の論文で研究成果として示されている。上述のように、知覚を読み取るためには行動を解析する必要がある。脳内の知覚機構を解明していく上で、行動が意図されたものなのかを統計学的に判断することができるモンテカルロ・シミュレーションの重要性は増していくと期待される。研究期間内に出版することはできなかったものの、本研究で開発した統計手法は、今後出版予定の論文で用いられている。
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