研究課題/領域番号 |
17K13965
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
古家 宏樹 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 精神薬理研究部, 流動研究員 (90639105)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 統合失調症 / 神経発達障害 / グルタミン酸NMDA受容体 / 空間作業記憶 / 空間参照記憶 |
研究実績の概要 |
統合失調症の背景には発達初期の神経発達の障害があると考えられている。しかし同疾患の発症因子となりうる神経発達障害の性状は明らかとなっていない。新生仔期NMDA受容体慢性遮断ラットは、統合失調症に類似する行動異常を示すことから、有用な統合失調症モデルとされる。本研究では、新生仔期NMDA受容体慢性遮断ラットを用いて、統合失調症様行動異常の原因となる神経発達障害が生じるメカニズムを解明することを目的とする。 本年度は、統合失調症様行動の原因となる神経発達障害が出生後のどの時期に生じているのかを明らかにするため、生後第2週、第3週、あるいはその両方にNMDA受容体拮抗薬MK-801をラットに投与し、成体期に統合失調症の認知障害を模倣する空間認知障害の有無を調べた。結果、生後第2週のMK-801投与により、第2-3週にMK-801を投与した場合と同等の著しい空間作業記憶障害が生じた。一方、生後第2-3週のMK-801投与は空間参照記憶の重篤な障害をもたらしたが、第2週のみの投与による影響は軽微であった。生後第3週のみのMK-801投与は空間作業記憶および参照記憶のいずれにも影響しなかった。以上のことから、空間作業記憶障害の元となる神経発達障害については生後第2週、空間参照記憶の原因となる神経発達障害は第2および3週に生じていることが明らかとなった。 ラット海馬では生後第2週に余剰ニューロンの活動依存的な減少がみられ、生後第2週から3週にかけて抑制性シナプスが発達することから、新生仔期NMDA受容体遮断による空間認知機能障害は、これらの神経発達の異常によるものと推測された。このことは統合失調症の背景にも同様の神経発達障害がある可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究結果より、空間認知機能の中でも空間作業記憶と空間参照記憶を支える神経回路の発達において、NMDA受容体の活性が必要となる時期を特定することができた。生後7日前後のNMDA受容体遮断がプレパルス抑制や社会的相互作用の障害、薬物誘発性過活動の亢進を生じることと合わせると、統合失調症様行動異常の原因となる神経発達異常が生じる時期を特定するという当該年度の研究目的を達成できたといえる。またニューロンの増減とシナプス形成におけるNMDA受容体の役割に関する知見と合わせて、統合失調症様行動の背景にある神経発達障害の性状を推測できるようになった。これにより、本研究課題の目的である統合失調症発症を引き起こす神経発達障害のメカニズム解明に近づいた。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画に従い、次年度には新生仔期の脳がなぜNMDA受容体遮断に対して脆弱であるのか、そのメカニズムを探る。具体的には、成体期の脳とはその発現比率が異なることが判っているNR2AとNR2Bサブユニットの機能差に着目し、新生仔期のラットにNR2A特異的拮抗薬あるいはNR2B特異的拮抗薬を投与し、後の統合失調症様行動異常の出現に及ぼす効果を比較する。申請時の計画では、空間認知機能の測定にはモリス水迷路および放射状迷路を使用する予定だったが、平成29年度の成果の中で、自発的交替反応においても新生仔期NMDA受容体遮断による空間認知機能の障害を検出できることが判ったため、平成30年度の計画では、Y字迷路における自発的交替反応を指標として空間認知機能の評価を行う。これにより、プレパルス抑制試験、社会的相互作用試験、自発的交替反応試験、薬物誘発性過活動試験を同一被験体でテストすることができ、使用する動物の匹数を削減できるため、効率よく研究を進めることができる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度に購入予定であったプレパルス抑制試験用機材に関して、所属機関内の他研究部が所有する機材を使用することができたため、機材を購入する必要がなくなった。これにより繰り越しとなる助成金については次年度に使用する予定の試薬が高価であるため、その購入費用に充てる。
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