研究課題/領域番号 |
17K13966
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
吉本 早苗 広島大学, 総合科学研究科, 助教 (80773407)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 視覚 / 情動 / 感性 / MRS / 神経伝達物質 / フリッカ / 不快感 |
研究実績の概要 |
輝度変化の激しい映像表現は時に不快感を喚起し、人によっては光感受性発作を引き起こす危険性すら孕んでいる。ところが、静止画像による不快感の空間特性に関する研究と比較すると、映像による不快感の時間特性に関する知覚心理学的研究は少なく十分な知見は得られていない。本研究計画では、どのような場合にどのような人が映像を不快と感じるのか、その原因を明らかにすることを目的とした。そのため、時空間次元で変化する映像に対する不快感を心理実験により測定し、不快感と視覚の時空間特性との関連を検討する。同時に、磁気共鳴分光法(MRS)を用いて脳内神経伝達物質の濃度を測定し、視覚的不快感における個人差の神経基盤を検討する。 今年度は、主に輝度変調フリッカによる不快感と視覚の時間特性に関する心理実験を行った。その結果、時間次元における不快感は時間周波数の振幅だけでなく位相の影響を受けることがわかった。また、自然情景統計量(1/f)で定義される自然さではなく、見かけの「自然さ」という印象が不快感に結びつくことがわかった。この結果は、視覚の時空間周波数チャンネルの出力が不快感に直結するわけではなく、「自然-不自然」といった印象形成が本質であることを示唆している。以上の結果をまとめ、海外学術誌に発表した(Yoshimoto et al., 2017, Vision Research)。一方で、従来よりも精度の高いMRSデータの解析手法導入を検討し、その評価実験を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は映像がもたらす不快感に関する視覚の時間特性と空間特性双方を明らかにし、その個人差を脳内神経伝達物質の濃度から理解することを目的としている。今年度は輝度変調フリッカを用い、視覚的不快感の時間特性に関するデータをまとめ、海外学術誌に発表することができた。この点については目標を達成することができたと言える。 ただし、映像のもう一つの側面である空間次元における不快感については、実験環境の整備や実験プログラムの作成に取りかかることができなかった。従来よりも精度が高いとされるMRSデータ解析手法の評価実験に時間がかかったためである。来年度はこの点の進捗を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
予備実験から、ある特定の振幅/位相スペクトルを持つ輝度変調フリッカへの順応が不快感に影響する可能性があることを見出した。これは、視覚の時間周波数チャンネルが不快感に結びつくかを調べる上で本質的に重要である。来年度は、この視覚的不快感における順応の効果に関するデータの取得と解析を時空間次元で進め、学会および海外学術誌への発表を目指す。また、MRSの解析手法に係る評価実験に基づいてMRSデータの取得と解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、初年度にMRSの解析手法に関する評価実験を行うことは想定していなかった。そのため、実験環境の整備や心理実験のプログラム作成に遅延が生じ、予定していた心理実験の一部が遂行できなかった。この実験にかかる費用の支出ができなかったことにより、次年度使用額が発生した。 次年度は、これまでに行った予備実験に基づいて視覚的不快感における順応の効果に関するデータを時間次元/空間次元双方で取得し、その論文化を目指す。次年度使用額が生じた助成金は、この計画において使用する予定である。
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